姉御あねご)” の例文
立合の手合はもとより、世擦れて、人馴れて、この榎の下を物ともせぬ、弁舌のさわやかな、見るから下っ腹に毛のない姉御あねごも驚いて目をみはった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石尊様詣りのついでに箱根へ寄って来しものが姉御あねご御土産おみやとくれたらしき寄木細工の小繊麗こぎようなる煙草箱たばこばこを、右の手に持った鼈甲管べっこうらお煙管きせるで引き寄せ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
作「金エなくったって、向でもって小遣もおれに呉れて、何うもハア新吉さんなら命までも入れ上げる積りだよ、と姉御あねごが云ってるから、行って逢っておりなせえよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
葉子が出て行く時には一人ひとりとして葉子に雑言ぞうごんをなげつけるものがいなかった。それから水夫らはだれいうとなしに葉子の事を「姉御あねご姉御」と呼んでうわさするようになった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
見世物の熊娘にひきつけられたていで、くしまきに、唐桟とうざん半纏はんてんで、咽喉のどに静脈をふくらませて、真赤になって口上こうじょうしゃべっている、汚い姉御あねごの弁舌に、じっと聞き惚れているんだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
殺す心の其方そなさんもなさないぞや恨めしやと勃然むつくと立てば三次は驚きヤア/\姉御あねご此私このわし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
綾子が一室にこもりてより、三日目の夕まぐれ、勝手口の腰障子をぬっと開けて、つら出す男、「姉御あねご、姉御。」と二人づれ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼らは葉子を下級船員のいわゆる「姉御あねご」扱いにしていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
三人よれ文珠もんじゆさへ授けぬ奸智かんち智慧袋ちゑぶくろはたいたそこやぶれかぶれ爲術せんすべつき荒仕事あらしごと娘にあはすと悦ばせて誘引おびき出すは斯々と忽ちきまる惡計にさしさゝれつ飮みながらとは云ふものゝまくは餘り感心かんしんせぬ事成れば姉御あねごと己とくじにせんと紙縷こよりひねつて差出せばお定は引て莞爾につこりわら矢張やつぱり兄貴あにきが當り鬮と云はれて三次は天窓あたま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
仲の町でもこの大一座は目に立つ処へ、浅間あさま端近はしぢか戸外おもてへ人立ちは、嬉しがらないのを知って、うち姉御あねごが気を着けて、すだれという処を、幕にした。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「屠犬児を引張ひっぱるなあ、どこの犬だい、ずうずうしい。」首をひねりて、「ほい、じゃむこう。姉御あねごはどうした。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「知れねえとえばどうもいまだに知れねえ。」「何が。」「この木賃宿の所有主もちぬしがよ。」「やっぱり姉御あねごが持ってるのだろう、御庇おかげでこちとらは屋根代いらずだ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ、お前さん、何だか一通ひととおりじゃあないようだ、人殺ひとごろしもしかねない様子じゃあないか。」さすがの姉御あねご洞中ほらなかやみに処して轟々ごうごうたる音のすさまじさに、奥へ導かれるのを逡巡しりごみして言ったが
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝶吉に肱鉄砲ひじを食ッて、鳶頭かしらに懐中の駒下駄を焼かれた上、人のこどもを食おうとする、獅子身中の虫だとあって、内の姉御あねごに御勘気をこうむったのを、平蜘蛛ひらぐもわびを入れて、以来きっと心得まするで
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(はあ、おはなの……)なんてな、此家ここ姉御あねご早合点はやがってんで……
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)