)” の例文
西東にしひがし長短のたもとを分かって、離愁りしゅうとざ暮雲ぼうん相思そうしかんかれては、う事のうとくなりまさるこの年月としつきを、変らぬとのみは思いも寄らぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またその天の尾羽張の神は、天の安の河の水をさかさまきあげて、道を塞き居れば、あだし神はえ行かじ。かれことに天の迦久かくの神を遣はして問ふべし
が、平三も磯二も厭だといふので平七もを折つて、網一ぱいの魚を其儘に出口をいて、兎に角帰ることにした。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
せきはすなわちき留める意味で、道祖神のさえも同じことだ、と行智法印などはいっております。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それをき止めてみたり、のみならず、いわくあり気な禁圧の形式までわざとらしく間に挟みます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして与里の激しい悲嘆は、きあへず、高い嗚咽に噎びはじめて消え入るやうな愁訴に変つた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
かれていた水が一度にどっと流れ出るように、伊助はどもりながら何事か言いたてようとする。
思わぬこの娘子じょうし軍の出現にいきなり前方をかれて、たじたじとなるとガソリンの爆音のみ、いたずらに我が天心へ反響さして、さて停ると、ますますはしゃいで、浮かれて
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
要するに素直なその斜面が一時岩壁でき止められ、そのため岩壁と斜面との間に一筋の谷が形成かたちづくられ、その谷の一点に庄三郎が今茫然ぼうぜんと佇んでいる。と云うのが目前の光景なのであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いつも僕のなかで何か爆発する音響がする。いつも何かが僕を追いかけてくる。僕は揺すぶられ、鞭打たれ、燃え上り、きとめられている。僕はつき抜けて行きたい。どこかへ、どこかへ。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
やがて鼻と口をかれた感動が、出端ではを失って、眼の中にたまって来た。まつげが重くなる。まぶたが熱くなる。おおいに困った。安さんも妙な顔をしている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あれ、恆は海道うみつぢを通して、通はむと思ひき。然れども吾が形を伺見かきまみたまひしが、いとはづかしきこと」とまをして、すなはち海坂うなさかきて、返り入りたまひき。
溢れ出やうとする渦をも熱心にき止めてゐる女は、部屋の片隅へ小さく寄つて——しかし言葉にではなしに身体によつて、私への激しい嫌悪と、不躾けに闖入した私への痛烈な憎しみを
一瞬の閃光せんこうで激変する人間、宇宙の深底に潜む不可知なもの……僕に迫って来るものははてしなく巨大なもののようだった。だが、僕は揺すぶられ、むち打たれ、燃え上り、きとめられていた。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
田のいりは映るしもと叢嫩芽むらわかめこのしづけさをいまだきたる
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
浅井君が無意味に小夜子を眺めているうちに、孤堂こどう先生は変な咳を二つ三ついた。小夜子は心元なく父のかたを向く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もしこの神でなくば、その神の子のタケミカヅチの神を遣すべきでしよう。ヲハバリの神はヤスの河の水を逆樣さかさまきあげて道を塞いでおりますから、他の神では行かれますまい。
田のいりは映るしもと叢嫩芽むらわかめこのしづけさをいまだきたる
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
高地人ハイランダース低地人ローランダースとキリクランキーの峡間はざまで戦った時、かばねが岩の間にはさまって、岩を打つ水をいた。高地人と低地人の血を飲んだ河の流れは色を変えて三日の間ピトロクリの谷を通った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水行くほかに尺寸せきすんの余地だに見出みいだしがたき岸辺を、石に飛び、岩にうて、穿草鞋わらんじり込むまで腰を前に折る。だらりと下げた両の手はかれてそそぐ渦の中に指先をひたすばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)