うずま)” の例文
わたし勲章くんしょううずまった人間を見ると、あれだけの勲章を手に入れるには、どのくらい××な事ばかりしたか、それが気になって仕方がない。……」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでもなお余ったのがからすねずみえさとなるのだが、中にはそれらの動物の目にも触れないで、わんだ枝のまま地にうずまって腐っているのもあった。
どこへ需要じゅようされてゆくのか、古道具屋のちりうずまったまま永年一朱か一でも買手のなかった鈍刀や錆槍さびやりまでが、またたく間に影を潜めてしまった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は黙ってむこうをむく。川縁かわべりはいつか、水とすれすれに低く着いて、見渡す田のもは、一面いちめんのげんげんでうずまっている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妾も仕方なしに、真綿の椅子の中で羽根布団にうずまったまま、おなじようにしてハラムの顔を見上げていた。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「女というものは、つまらないものだ」と仰って、深い歎息にうずまって、花も嗅いで御捨てなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このうえなき満足まんぞくもっ書見しょけんふけるのである、かれ月給げっきゅう受取うけとると半分はんぶん書物しょもつうのについやす、その六りているへやの三つには、書物しょもつ古雑誌ふるざっしとでほとんどうずまっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
大辻老は、目の前に、百貨店がうずまり、その反動で自分たちが吹き上げられて助かったなどとは気がつかず、大地震とばかり思っているところは、どこまでも大辻式だった。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、猿はその巣が気に行ったらしく、赤ん坊のようにその中にうずまって眠りこみました。
道は雪にうずまって分らなかった。人の影を見ない。木立こだちは雪をて重げである。空濠からぼりも雪に埋っていた。私は、この大きな陰気な空濠を廻って寺の墓地に入った、杉の木からは絶えず雪が崩れて落ちた。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
交通もなく、枯木の林の中にうずまっている。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
世の中はしつこい、毒々しい、こせこせした、その上ずうずうしい、いやなやつうずまっている。元来何しに世の中へつらさらしているんだか、しかねる奴さえいる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岸をさかのぼるにつれまして、さすがの大河も谿流けいりゅうの勢に変るのですが、河心が右岸の方へひどかしいでおりますので、左岸は盛上がったような砂底のあらわれた中に、川上から押流された大石がうずまって
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この隧道の中の汽車と、この田舎者の小娘と、そうして又この平凡な記事にうずまっている夕刊と、——これが象徴でなくて何であろう。不可解な、下等な、退屈な人生の象徴でなくて何であろう。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
問屋の前は、今着いた二挺の肩代かたがわりで人間がうずまっていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そろそろと天幕テントの所まで帰って来る。今度は中をのぞくのをやめにした。中は大勢でがやがやしている。入口へ回って見ると人でうずまって皿の音がしきりにする。若夫婦はどこにいるか見えぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)