あきない)” の例文
膝の下の隠れるばかり、甲斐々々しく、水色唐縮緬とうちりめんの腰巻で、手拭てぬぐいを肩に当て、縄からげにして巻いた茣蓙ござかろげにになった、あきない帰り。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主「はい/\心得ましたが、昨夜さくやはどうも、あきないにお出でなすって多分のお茶代を戴いて済みません、何卒どうぞ明年も御心配なくなア」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そんなことアわかッてら。でも元々、こんなところであきないはしなくても、親からのお花客とくいに、事は欠かねえ酒売りだよ。ばかにしてやがる」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じょちゅうなり何なりにして、私をお傍へ置いてくださいますまいか、そのかわり、私は親の残してくれた金三十両持っております、それをあきない資本もとでにお使いくださいまし
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三井の有名な絹店は、それが市内最大の呉服屋で、そして素晴しいあきないをやっているのだから、見に行く価値は充分ある。勘定台も席もない大きな店を見ると、奇妙である。
実際、この町の人々は、一ヶ年のあきないを、たった二ヶ月の「夏」に済ませてしまうのであった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その内に筑波颪つくばおろしがだんだん寒さを加え出すと、求馬は風邪かぜが元になって、時々熱がたかぶるようになった。が、彼は悪感おかんを冒しても、やはり日毎に荷を負うて、あきないに出る事を止めなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……そこで宵のに死ぬつもりで、対手あいてたもとには、あきないものの、(何とか入らず)と、懐中には小刀ナイフさえ用意していたと言うのである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
友「御膳より好で、目の先へ斯う始終碁が並んでいる様で、あきないの邪魔になりますからピッタリめました」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は此処では好いあきないがないから会津の方へ往こうと云って、旅装束をして二人で家を出た。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
口切くちきりあきないでございます、本磨ほんみがきにして、成程これならばという処を見せましょう、これから艶布巾つやぶきんをかけて、仕上げますから。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜更けては帰るにみちのほど覚束おぼつかなしとて、あきないして露店しまえば、そのまま寝て、夜明けてのち里に帰るとか。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたわらよりくだん屑買くずや、「わしゃまた一日ついたちと十五日が巡回日まわりびで今日もって来たのじゃが、この様子では入ってからあきないは出来ぬらしい、やれさても。」と大きに愚痴こぼす。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
商売冥利みょうり渡世くちすぎは出来るもの、あきないはするもので、五布いつのばかりの鬱金うこんの風呂敷一枚の店に、襦袢じゅばんの数々。赤坂だったらやっこ肌脱はなぬぎ、四谷じゃ六方をみそうな、けばけばしい胴、派手な袖。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
味をしめて、古本を買込むので、床板を張出して、貸本のほかに、そのあきないをはじめたのはいいとして、手馴てなれぬ事の悲しさは、花客とくいのほかに、掻払かっぱらい抜取りの外道げどうがあるのに心づかない。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柳屋は土地で老鋪しにせだけれども、手広くあきないをするのではなく、八九十軒もあろう百軒足らずのこの部落だけを花主とくいにして、今代こんだい喜蔵きぞうという若い亭主が、自分で売りにまわるばかりであるから
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田圃たんぼの方へ一町ばかり行った処に、村じゃ古店であきないも大きくっている、家主の人柄もし、入口が別に附いて、ちょっと式台もあって、座敷が二間、この頃に普請をしたという湯殿も新しいし
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえさ、あきないもこうなりゃ、占めたものだというんでさ。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)