商賈しょうこ)” の例文
帯しむるに金枷きんかを以てす、商賈しょうこその国を経過するありて、まず祀らざれば人の衣裳を噛む、沙門の呪願を得れば他なきを獲、晋の釈道安
ふうを慕って、たちまち、商賈しょうこや漁夫の家が市をなし、また四方から賢士剣客の集まって来るもの日をおうてえていた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
商賈しょうこみな王の市におさめんと欲し、行旅みな王のに出でんと欲し、たちまちにして太平洋中の一埠頭ふとうとなり、東洋の大都となり、万国商業の問屋となり
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
商賈しょうこも出た負販ふはんの徒も出た。人の横面そっぽう打曲はりまげるが主義で、身を忘れ家を忘れて拘留のはずかしめいそうな毛臑けずね暴出さらけだしの政治家も出た。猫も出た杓子しゃくしも出た。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
南は宇治川の長堤曲浦きょくほ蜿々えん/\と麓をめぐっておりまして、大坂よりの着船に便よろしく、北は洛外に打ちつゞき在家が幾重にも引き廻して商賈しょうこが繁昌いたしており
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この地に府をひらくため、或いは府らしい景観を備えるため、商賈しょうこと工人を、利を掲げて呼び集めたのであった。百両の家作料と三カ年の手当金百五十両を給した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それに比べると、よほど筋が通ッている。陶の父は旧弊な商賈しょうこ根性のもので、俺の前へ出ると容易に顔もあげぬという風だから、権勢の及ぶところを示せば否やはあるまい。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
蝶吉の母親はもと京都のしかるべき商賈しょうこの娘であったが、よくある、浄瑠璃じょうるりの文句にある、親々の思いも寄らぬつま定めで、言いかわした土佐の浪人とまだ江戸である頃遁げて来た。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
師匠菊之丞が扮する、身を商賈しょうこにやつした藤原治世との色模様となる場面であった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
この事ありてより余は書肆しょしを恐れ憎むこと蛇蝎だかつの如くなりぬ。今の世士農工商の階級既に存せずといへども利のために人の道を顧みざる商賈しょうこやからは全く人の最下に位せしめて然るべきなり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
日本人は衷心においては外国との通商交易を望み、中にもヨーロッパの学術工芸を習得したいと欲しているが、ただ自分らを商賈しょうこに過ぎないとし、最下等の人民として軽んじているのである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大原という処は鬼怒きぬ水電工事の中心である。ために入込はいりこんでいる工夫こうふの数は三千人程あるという話だ。山間の僻地へきちの割には景気がいいらしい。商賈しょうこもドシドシ建つようだし、人間の往来も多い。
先生も読本の時間に「商賈しょうこのきを接してくしの歯を引くが如し」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
商賈しょうこに変じ、陶朱公とうしゅこうたらんと欲し、屡々しばしば利貨を失ふ」。
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
両替屋出入りの客などをお花客とくいにして、大きな商賈しょうことなっているうえ、渡り職人や、旅稼たびかせぎの女芸人にいたるまで、他国者よそものが入市するには、ぜひとも
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
商賈しょうこ戸をとざして風雨いよいよ烈しく、冷気肌を襲うてなんとなく物凄い。
ついには大坂の商賈しょうここういけ、加島屋、辰巳屋などいえるものどもに借財して一時いっときの乏しきを救うといえども、またその利息返償に一層の苦を増し、ついに窮迫、せんかたきて、家中の禄をかりあげ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
城下の商賈しょうこに令を出して、甲信側の塩商人へどしどし塩を売ってやれ、とすすめればよいのだ。ただし先の欠乏につけこんで、暴利をむさぼるおそれがある。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の旅舎は、もと足利義昭よしあきのいた二条のたちを改築して宛てていた。日々、公卿くげ、武人、茶家、文雅のともがら浪華なにわさかいなどの商賈しょうこの者まで、訪問客はいちをなした。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨今、わが領の商賈しょうこを通じ、貴国に塩を給すの意、ほかあるなし。ねがう安んじてこれを取れ。なお君の麾下きかをして更に士馬精鋭たらしめよ。戦陣ふたたび相まみえん。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もし今、挙げて、王府をこの地からはらえば、商賈しょうこは売るに道を失い、工匠は職より捨てられ、百姓は流離して、天を怨みましょう。——丞相どうか草民をあわれんで下さい」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、彼をも督して、その振舞のために手つだわせ、京都、堺の商賈しょうこに命じては、あらゆる佳肴鮮味かこうせんみの粋をあつめた。そして、十五日から十七日まで、三日にわたる大饗宴を予定した。それについて
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)