あふ)” の例文
娘の留守に自棄酒やけざけあふつた金五郎が、夜中にフラフラとお六を殺したくならないものでもあるまい——と、う萬七親分は言ふんだ
湯村は酔うた頭を前後にフラ/\させながら、「女の云ふ事情なんてあてになるものか。」と、でも思出しては手酌でガブ/\あふつて居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
毎夜棄鉢すてばちな酒ばかりあふつてゐる十八の娘、ヱロの交渉となると、何時もオ・ケで進んで一手に引受けることにしてゐる北海道産れの女、等々。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
かう言つて、お文は少しも肴に手を付けずに、また四五杯飲んだ、果てはコツプを取り寄せて、それに注がせてあふつた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
げば又あふりて、その余せるを男に差せば、受けて納めて、手をりて、顔見合せて、抱緊だきしめて、惜めばいよいよ尽せぬ名残なごりを、いかにせばやと思惑おもひまどへる互の心は
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「……」彼は、空腹に酒をあふつた時のやうにカツと顔のほてるのを感じた。彼は漸く口を動かして
或る五月の朝の話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
いわく、丁晋公臨終前半月、すでくらはず、ただ香をいて危坐きざし、黙して仏経をじゆす、沈香の煎湯せんたうを以て時々じゞ少許せうきよあふる、神識乱れず、衣冠を正し、奄然えんぜんとして化し去ると。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たゞし人目ひとめがある。大道だいだう持出もちだして、一杯いつぱいでもあるまいから、土間どまはひつて、かまちうづたかくづれつんだ壁土かべつちなかに、あれをよ、きのこえたやうなびんから、逃腰にげごしで、茶碗ちやわんあふつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は飲みつけない強い酒をあふつて、それでやう/\不定な睡眠をとることにしてゐる。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
溜つた酒代の貸前が入つて上機嫌の爺さんが盆に載せて出したコップの冷酒を一氣にあふつたZ・K氏は、「さあ、片つ端から、おれにかゝつて來い」と、尻をまくつて痩脛を出した。
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
『アノ人は面白い人でして、得意な論題でも見つかると、屹度先づ給仕を酒買にやるんです。冷酒をあふりながら論文を書くなんか、アノ温厚おとなしい人格に比して怎やら奇蹟の感があるですな。』
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その慘憺さんたんたる有樣を眺めて、多之助の女房だつた、妖艶無比のお若は、部屋一パイに飛散る血を、滿山の花とでも思つたか、雛毛氈ひなまうせんを敷いて、冷酒をあふり乍ら
白鹿はくしか」と銘のある大樽の呑口から茶漬茶碗に一杯注いだ冷酒ひやざけをグツとあふることもある。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さけ熱燗あつかんのぐいあふり、雲助くもすけふうて、ちや番茶ばんちやのがぶみ。料理れうりかた心得こゝろえず。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
聞くも苦しと、男は一息に湯呑のなかばあふりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我も酒などあふらむと思へる日より
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
これも只の酒をしたゝかにあふつてを押す手も覺束なくなつた船頭の直助と二人、もやつた船のへさきともに別れて、水を渡つて來る凉しい風に醉を吹かれて居たのです。
松五郎は湯呑の冷酒をガブりとあふると、中腰になつて喜兵衞を睨み据ゑます。
植木屋の辰五郎の家は、新堀江町寄りの裏店うらだなで、平次が行つた時は、まだ女房のお瀧の死骸もそのまゝ、辰五郎は死んだ女房の床の前に、大胡坐あぐらを掻いて茶碗酒をあふつてゐるところでした。
相變らず佛樣の前に大胡坐あぐらで、茶碗酒をあふつてゐる辰五郎です。
八五郎は手酌で二三杯續け樣にあふつてをります。
湯呑で一杯あふつて斯んな憎い口をきくのです。
お茶にまぎらせた湯呑の冷酒をあふつて居ります。