呉竹くれたけ)” の例文
北の東は涼しい泉があって、ここは夏の庭になっていた。座敷の前の庭には呉竹くれたけがたくさん植えてある。下風の涼しさが思われる。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
半井卜養なからいぼくようという狂歌師の狂歌に、浦島うらしまが釣の竿とて呉竹くれたけの節はろくろく伸びず縮まず、というのがありまするが、呉竹の竿など余り感心出来ぬものですが
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ここは呉竹くれたけの根岸の里の御行おぎょうの松、番町だの、四谷だの、何を言っているのだ、そんなことで訪ね先がわかるものか、もっと要領のよい名ざしがありそうなものだと
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わざと大袈裟おほげさあたまをかきながら、をつとまりつた。そして、にはの一すみ呉竹くれたけ根元ねもとにころがつてゐるそれをひろげようとした刹那せつな、一ぴきはち翅音はおとにはつとをすくめた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
くまでに師は恋しかりしかど、夢さら此人を良人つまと呼びて、共に他郷の地を踏まんとは、かけても思ひ寄らざりしを、行方ゆくかたなしや迷ひ、窓の呉竹くれたけふる雪に心下折したをれて我れも人も
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
、行方なしや迷ひ……窓の呉竹くれたけふる雪に心下折したおれて、我も人も、罪は誠の罪になりぬ
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
国司は、青くなって、「返す返す」と、悲鳴をげた。この女は、呉竹くれたけをねり糸のように、くしゃくしゃにする位強かった。ところがこうした強い女も、封建的ほうけんてきな家庭制度にはかなわない。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
打出されたところは昔呉竹くれたけ根岸ねぎしの里今はすすだらけの東北本線の中空である。
猫の穴掘り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
みせかまどうへで、ざるすかすまで、あか/\とのさしたところは、燒芋屋やきいもやとしては威嚴ゐげんとぼしい。あれはれるほどなさむばんに、ぱつといきれがつにかぎる。で、白晝はくちう燒芋屋やきいもやは、呉竹くれたけさと物寂ものさびしい。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
竹といっても中々沢山な種類がありますが、まずその中で淡竹はちく苦竹まだけとが大関です。これがすなわち昔、呉竹くれたけといったものです。くれとはもともと朝鮮の方の名ですけれども、ここでは支那を指しています。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
熱海あたみへ行った釘勘の返辞を待っている約束で、根岸へ帰った後、しばらくおとなしくしておりましたが、春かんとする呉竹くれたけの里に、歌をよむでなく詩を作るでもなく、無為むい日永ひながを歎じていますと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呉竹くれたけや大根おろし軒の雪 心色
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
縁に近くはえた呉竹くれたけが若々しく伸びて、風に枝を動かす姿に心がかれて、源氏はしばらく立ちどまって
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なるほど、この御行おぎょうの松の上へのぼると、呉竹くれたけの根岸の里の寺々がよく見えます。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
呉竹くれたけの蔭なる小路こうじに隠れて、見えずなりました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)