向顱巻むこうはちまき)” の例文
旧字:向顱卷
そいつをにらみつけて、右の向顱巻むこうはちまき、大肌脱で通りかかると、キチキチ、キチキチと草が鳴る……いや、何か鳴くですじゃ、……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という処へ、萌黄もえぎ裏の紺看板に二の字を抜いた、切立きったて半被はっぴ、そればかりは威勢がいが、かれこれ七十にもなろうという、十筋右衛門とすじうえもん向顱巻むこうはちまき
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くから、出しなには寒かったで、布子ぬのこ半纏はんてんを着ていたのが、その陽気なり、働き通しじゃ。親仁殿は向顱巻むこうはちまき大肌脱おおはだぬぎで、精々せっせっっていたところ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつもの向顱巻むこうはちまきが、四五日陽気がほかほかするので、ひしゃげ帽子を蓮の葉かぶり、ちっとも涼しそうには見えぬ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
音が、かさかさと此方こなたに響いて、樹を抱いた半纏は、梨子なしを食ったけもののごとく、向顱巻むこうはちまきで葉を分ける。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心を削り、魂を切って、雌雄しゆうの——はじめは人のおもてのを、と思いました。女の方は黒髪を乱した、思い切って美しい白い相の、野郎の方は南瓜かぼちゃ向顱巻むこうはちまきでも構わない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桜草をお職にした草花の泥鉢、春の野を一欠ひとかきかいて来たらしく無造作に荷を積んだのは帰り支度。かかとしりの片膝立。すべりとげた坊主頭へ縞目しまめの立った手拭てぬぐい向顱巻むこうはちまき
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目鼻立めはなだちの愛くるしい、罪の無い丸顔、五分刈ごぶがり向顱巻むこうはちまき三尺帯さんじゃくおびを前で結んで、なんの字をおお染抜そめぬいた半被はっぴを着て居る、これは此処ここ大家たいけ仕着しきせで、挽いてる樟もその持分もちぶん
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
濡色のたいを一枚、しるし半纏ばんてんという処を、めくらじま筒袖つつッぽを両方大肌脱ぎ、毛だらけの胸へ、釣身つりみに取って、尾を空に、向顱巻むこうはちまきの結びめと一所に、ゆらゆらとねさせながら
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
麓では、二人の漁夫りょうしが、横に寝た大魚おおうおをそのまま棄てて、一人は麦藁帽むぎわらぼうを取忘れ、一人の向顱巻むこうはちまき南瓜とうなすかぶりとなって、棒ばかり、影もぼんやりして、うねに暗く沈んだのである。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヤ、ヤ、このまんまで、いきついては山車だし人形の土用干——たまらんと身悶みもだえして、何のこれ、若衆わかいしゅでさえ、婦人おんなの姿を見るまでは、向顱巻むこうはちまきゆるまなんだに、いやしくも行者の身として、——
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大釜おおがまに湯気を濛々もうもうと、狭いちまたみなぎらせて、たくましいおのこ向顱巻むこうはちまきふみはだかり、青竹の割箸わりばしの逞しいやつを使って、押立おったちながら、二尺に余る大蟹おおがに真赤まっかゆだる処をほかほかと引上げ引上げ
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向顱巻むこうはちまきしたであります——はてさて、この気構えでは、どうやら覚束おぼつかないと存じながら、つれにはぐれた小相撲という風に、源氏車の首抜くびぬき浴衣の諸肌脱もろはだぬぎ、素足に草鞋穿わらじばき、じんじん端折ばしょり
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
店の亭主が向顱巻むこうはちまき気競きそうから菊正宗のえいが一層はげしい。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向顱巻むこうはちまきの首をって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)