可憐いじら)” の例文
「根に力を蓄え、望みは、永遠の結実に持て。——そういのるわしの施政が踏みしめて来た領土。ここの領民は可憐いじらしいものたちよ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やっとのことで、房吉と一緒におゆうを座敷へ連込んで来たお島の目には、髪を振乱したまま、そこに泣沈んでいるおゆうが、可憐いじらしくもねたましくも思えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あすこの群の方へははいらずに、まるで永い間里へやられていた里子のように、一羽しょんぼりと離れている様子が、少女には何か愛くるしく可憐いじらしかった。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
呪わしい人と一途いちずにムカムカとしてきたその人の影に、可憐いじらしいものが見え出して来るのでありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
又、襟足の洗いおとした白粉が、この幼い葉子の寝姿を少年の心にも、一入ひとしお可憐いじらしく見せていた。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
さきに食事をした場所に引き返して二三服の煙草を吸い、この可憐いじらしい池に「左様なら」をした。時計は午後一時半であった。そして、また前の森の中を落葉の音を立てながら歩み始めた。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
と小次郎は云い、その可憐いじらしい肩を抱いた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
可憐いじらしいじゃないか……
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、一日も早う、母の尼に会いたいと、それのみ申す可憐いじらしさに、じつは男二人を付けて、きのう足利ノ庄へ旅立たせたばかりで……」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親達や兄や多くの知った人達と離れて、こんな処に働いている自分の姿が可憐いじらしく思えてならなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
主義者がパラソルの色合いの錯覚を利用して、尾行の刑事を撒いていた。同性愛に陥った二人の女学生は、手をつなぎ合せながら、可憐いじらしそうに、お揃いの肩掛を買っていた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
可憐いじらしや! 浮藻殿オーッ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たのむまい。そらばかり見て待ちこがれても始まらん。兵隊が可憐いじらしいが、餓死するまで戦おう。君も孤塁の鬼となってくれ」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金縁きんぶち眼鏡をかけて、細巻ほそまきを用意した男もあった。独法師ひとりぼっちのお島は、草履や下駄にはねあがる砂埃すなぼこりのなかを、人なつかしいような可憐いじらしい心持で、ぱっぱと蓮葉はすはに足を運んでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
位牌いはいとてはないが、一碗の水を供えてある。可憐いじらしくも、とらわれの身にありながら、父や兄たちの霊に、朝暮の回向えこうをしているものとみえる——
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抱きつきたがる可憐いじらしい姿が浮かんで来て、思わず目が熱くなって来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
よしない話を深問いして、かえって酒がめてしまったからである。彼は、小娘の純情が、可憐いじらしくてならなくなった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの可憐いじらしいひとみにうれし涙をたたえ、を合せて拝まんばかりによろこぶがために、(もし、お父君に知れたならば、自分がすべての罪を負って)
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝夕に、将門も見ている屋根だし、将門にとっては、常に自分を、「力づよいお館様」と頼みきって、すきをもち、漁業すなどりをしている、可憐いじらしい領民なのだ。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「余りに、兄の心の可憐いじらしさに……。そして、おじ様も、いつお討死か知れぬと聞き、お別れに参りました」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さいつ頃、尾張の頼盛が家人けにんの弥兵衛宗清という侍が、美濃路で捕えてきた可憐いじらしい和子がありましたの」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泣きじゃくっている城太郎の姿を見れば、武蔵はまた可憐いじらしくもなって、その頭をふところへ抱き寄せ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可憐いじらしいことではある、むごい、なされかたではあると——院へむかって、口にも出せないだけに、みな春なき氷の谷間にも似て、恨みを閉じている一ノ宮であった。
そういうわがことよりもいやまして、このお通の可憐いじらしく、そして不愍ふびんでならないと思われるのは、男でさえ、片荷には重すぎる悩みを、女の身で、生活にちつつ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不憫ふびんとも、可憐いじらしいとも、いいようのねえやつサ。お袖が、うんというならば、おれがおめえになり代ってやりてえくらいなもんだ。……ええ、おい。何とかいえやい
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盲愛といってもよいほど、父の禅閤の君は、この姫が、可憐いじらしくて可愛くてならないのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長は、可憐いじらしい女童めわらべどもの住む奥へ向い、また、この城にある祖先の霊へむかい、心の底から
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い者のおとなしいのは可憐いじらしい。亡き殿も、平常ふだん御謹厳ごきんげんであったが、御酒ごしゅでもくださるとなれば、若侍には、おとがめなく何事もゆるされた。きょうは、御酒をいただこう
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょこねんと置いた姿の坐り癖も、小首をかしげる盲癖めくらぐせも、小法師だけに可憐いじらしかった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、膝を立てて、その可憐いじらしいものを、官兵衛の方へ、わざと力づよく、追いやった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六条の河原では、やがてそれらの可憐いじらしい和子わこたちや女房たちの打首が執行された。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう思えば、むしろ気のどくなのは明智方の人々、わけて可憐いじらしいのは足軽小者の心根じゃ。——汝ら、医に志しながら、もののあわれもわきまえぬほどなら、医者学問などは止めてしまえ
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……また、お市さまの良人であらせられるあなた様はどうか。信長様の弱点をさとって、いて、母子数人の可憐いじらしいものを、この城と運命を共にさせようとしておいでになるではないか。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よくぞ気づかれた。われら源氏という者の一門は今日亡び去っても、明日あしたへながれる血は亡びぬ。その一脈のお血につながる可憐いじらしきお人や幼い方々が、まだ都には残されておざったな」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お通が、貸すのも嫌、吹くのも嫌といった気持は、よくわかるし、可憐いじらしい。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう見るにつけ、半兵衛の胸は、可憐いじらしと思う気持でいっぱいになった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可憐いじらしさにもとらわれ、日常、左右にあるものでは、容易に斬れるものではありません……万が一、家来の不心得などから、贋首にせくびなどを御覧に供えては、信長公にも申しわけもないことと思案の末
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、そんな可憐いじらしい気持が起るかと思うと、少年の天性のうちには、遊びたい、喰いたい、知識を得たい、遠くへはしりたい——さまざまな欲望の芽が、雑草の伸びるようにさかんになるのであった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女の子の可憐いじらしさにはかなわぬといった風で、市郎右衛門は
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「む、む。……あのようにまだ子どもだからな、可憐いじらしいよ」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「恨みとも思わないのかえ。やれやれ、よけいに可憐いじらしい」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可憐いじらしい一心がれた眸にこう云わせるのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵は、可憐いじらしくなって
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可憐いじらしいお心根。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)