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匀
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にほひ
ふりがな文庫
“
匀
(
にほひ
)” の例文
しかしドン・ジユアンは冷然と、
舟中
(
しうちう
)
に
剣
(
つるぎ
)
をついた儘、
匀
(
にほひ
)
の
好
(
い
)
い葉巻へ火をつけた。さうして眉一つ動かさずに、
大勢
(
おほぜい
)
の霊を眺めやつた。
LOS CAPRICHOS
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
何処
(
どこ
)
の山から来た木の葉か?——この
匀
(
にほひ
)
を
嗅
(
か
)
いだだけでも、壁を
塞
(
ふさ
)
いだ書棚の向うに星月夜の山山が見えるやうである。
わが散文詩
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
僕は昔は渡し舟へ乗ると、——いや、時には橋を渡る時さへ、
磯臭
(
いそくさ
)
い
匀
(
にほひ
)
のしたことを思ひ出した。しかし
今日
(
こんにち
)
の大川の水は
何
(
なん
)
の匀も持つてゐない。
本所両国
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
珈琲
(
コオヒイ
)
の
匀
(
にほひ
)
、ボイの註文を通す声、
夫
(
それ
)
からクリスマス
樹
(
トリイ
)
——さう云ふ賑かな周囲の中に自分は
苦
(
にが
)
い顔をして、いやいやその原稿用紙と万年筆とを受取つた。
饒舌
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
日の光、
茉莉花
(
まつりくわ
)
の
匀
(
にほひ
)
、黄色い絹のキモノ、Fleurs du Mal, それからお前の手ざはり。……
動物園
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
▼ もっと見る
僕はコンクリイトの建物の並んだ
丸
(
まる
)
の
内
(
うち
)
の裏通りを歩いてゐた。すると何か
匀
(
にほひ
)
を感じた。何か、?——ではない。野菜サラドの匀である。僕はあたりを見まはした。
春の夜は
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
さう云ふ内にこの公園にも、次第に
黄昏
(
たそがれ
)
が近づいて来た。おれの
行
(
ゆ
)
く路の右左には、
苔
(
こけ
)
の
匀
(
にほひ
)
や落葉の匀が、混つた土の匀と一しよに、しつとりと冷たく動いてゐる。
東洋の秋
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
その
姿
(
すがた
)
を
煤煙
(
ばいえん
)
と
電燈
(
でんとう
)
の
光
(
ひかり
)
との
中
(
なか
)
に
眺
(
なが
)
めた
時
(
とき
)
、もう
窓
(
まど
)
の
外
(
そと
)
が
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
明
(
あかる
)
くなつて、そこから
土
(
つち
)
の
匀
(
にほひ
)
や
枯草
(
かれくさ
)
の
匀
(
にほひ
)
や
水
(
みづ
)
の
匀
(
にほひ
)
が
冷
(
ひやや
)
かに
流
(
なが
)
れこんで
來
(
こ
)
なかつたなら、
漸
(
やうや
)
く
咳
(
せ
)
きやんだ
私
(
わたくし
)
は
蜜柑
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
寒い朝日の光と一しよに、水の
匀
(
にほひ
)
や
芦
(
あし
)
の匀ひがおれの体を包んだ事もある。と思ふと又
枝蛙
(
えだかはづ
)
の声が、
蔦葛
(
つたかづら
)
に
蔽
(
おほ
)
はれた木々の梢から、一つ一つかすかな星を呼びさました覚えもあつた。
沼
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
其処
(
そこ
)
を独り歩いてゐると、冷たい
木犀
(
もくせい
)
の
匀
(
にほひ
)
がし出した。何だかその匀が芭蕉や松にも、
滲
(
し
)
み
透
(
とほ
)
るやうな心もちがした。すると向うからこれも
一人
(
ひとり
)
、まつすぐに歩いて来る女があつた。
雑筆
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
二三年
前
(
まへ
)
に故人になつた僕の小学時代の友だちの
一人
(
ひとり
)
、——
清水昌彦
(
しみづまさひこ
)
君の作文である。「泰ちやん」はかう云ふ作文の中にひとり教科書の
匀
(
にほひ
)
のない、活き活きした口語文を作つてゐた。
本所両国
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
わたしは
何
(
なん
)
とも返事をしずに
匀
(
にほひ
)
のない
珈琲
(
コオヒイ
)
を
啜
(
すす
)
つてゐた。けれどもそれは断髪のモデルに何か感銘を与へたらしかつた。彼女は赤い
眶
(
まぶた
)
を
擡
(
もた
)
げ、彼女の吐いた煙の輪にぢつと目を
注
(
そそ
)
いでゐた。
雪
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
下足札はまだ木の
匀
(
にほひ
)
がする程新しい板の
面
(
おもて
)
に、俗悪な太い字で「雪の十七番」と書いてある。自分はその書体を見ると、
何故
(
なぜ
)
か
両国
(
りやうごく
)
の橋の
袂
(
たもと
)
へ店を出してゐる
甘酒屋
(
あまざけや
)
の赤い荷を思ひ出した。
東京小品
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
唯僕等の明治時代はまだどこかに二百年間の「風流」の
匀
(
にほひ
)
を残してゐた。けれども今は
目
(
ま
)
のあたりに、——O君はにやにや笑ひながら、恐らくは君自身は無意識に僕にこの矛盾を
指
(
さ
)
し示した。
本所両国
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
誰か
瓦斯
(
ガス
)
の
匀
(
にほひ
)
の中にシヤベルの泥をすくひ上げてゐる。誰か、——ではない。まるまると肥つた紳士が
一人
(
ひとり
)
、「
詩韻含英
(
しゐんがんえい
)
」を拡げながら、
未
(
いま
)
だに
春宵
(
しゆんせう
)
の詩を考へてゐる。……(昭和二・二・五)
春の夜は
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
少くとも敬意を表する前には
匀
(
にほひ
)
だけでも
嗅
(
か
)
いで見るものである。……
鷺と鴛鴦
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
何
(
なん
)
でも
雨上
(
あまあが
)
りの葉柳の
匀
(
にほひ
)
が、
川面
(
かはも
)
を蒸してゐる時だつた。
動物園
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
わたしは唯
樟脳
(
しやうなう
)
に似た思ひ出の
匀
(
にほひ
)
を知るばかりである。
わが散文詩
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
匀
部首:⼓
4画
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匀々
匀合