あん)” の例文
歴史には名は出ていなくても、隣家となりの大将、裏のねえさん、お向うのあんちゃんには、神のように、父のように慕われ、うやまわれたんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おらも、あんつあんと行ぐは。」と一人で土をいじくって遊んでいたよしが、土煙の中から飛び出してヨーギの方へ駈けて行った。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「オ、オイあんちゃん下駄々々、下駄ッたら、困るよあんちゃん、そんな下駄のまんまで上がられちゃ」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「おい、おしゃべりしとる、そこのあんちゃん、ちょっと、向こうまで、顔を貸してくれんか?」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
由三は空の茶碗を箸でたたき乍ら、「あんちゃ帰らないな……」と、唇をふくれさせていた。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そのとき「あんちゃんが来てらア」と叫んでおちえとヨシ子が往還の方から飛びこんで来た。
(新字新仮名) / 犬田卯(著)
「なんのでねえよ、そんだもの見こくってなんのたしになるべえさ。みんなよって笑っとるでねえか、やまさあんさんこと暇さえあれば見ったくもない絵べえかいて、なんするだべって」
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「え、だけどあたしなんか馴れ切つてゐるけれど……あんさんは淋しいで御ざんせう!」
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「どうですあんさん、病人があつて気が晴れませんのう。」と慰めるやうに言つた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
あんちゃんが今に専門の医者にかけて必ずよくしてやるからな。いいか、兼、アーメンとこさ行くんじゃねえよ。……おっ母ア、お前の小使い置いていくよ。俺ア急ぐから帰るぜじゃ又な——
反逆 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
「おあんさん、私悪かつた……堪忍して……。」と妹はそこの板の間へ突伏つゝぷした。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
「およしよ。あんちゃん!」突然横合からお照が口を出した。虎御前は祝い酒を聞こし召しているらしく、鼻に懸った声を出した。「余計なことを云いだすと、あたしが黙っちゃいないよ」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あんにゃさえ居りゃあ何せ……何せ働き手は徴兵にとられるし、何せ……」
とも喰い (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「あれを見て下さいな、あんちやんとねえやの逢引きだ。泣いたり笑つたり」
もちろん、年上のものが先生になるのを当然と心得てゐたわけだが、あいつはいきなり、ぢや、あんちやんが先生なら、おらは校長さんだと言ひ出しやがるんだ。それで学校ごつこはおじやん……。
村で一番の栗の木(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
トラツクから肥桶こえをけを積みおろしてゐる紫紺しこんの海水着を一着いつちやくにおよんだ、飴色セルロイドぶちの、ロイド眼鏡をかけた近郊のあんちやんが、いまや颯爽と肥桶運搬トラツクに跳び乘り、はんどるを握つて
夏の夜 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「おい、あんちゃん、何かひと口しめしなよ。鸚鵡ペロケでもやろうか」
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「うざくらし、いやな——おあんさん……」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんさん、もう仕舞はんでな。」
無題Ⅰ (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
あんにい、おれにもよ。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あんちやんも
本部の段々で (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
てめえなんかに、このあんちゃんの心意気がわかってたまるもんけエ。代地だいちつらよごしだ。たたんじめエ!
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
飯を炊きに帰った養吉が、「あんつあんが帰って来たぞう!」と叫びながら駈けて来たので、梅三爺は唐鍬とうぐわかついで、よこらよこらと自分の小屋へ帰って来たのであった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「そだ。そだ。あんさんいい力だ。浜まで押してくれたらおらお前にれこすに」
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「伯父さんが、ホヽヽヽヽヽ姉さんを、あんさんと間違へて、ホヽヽヽヽヽ。」
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
あんちゃん、豪勢なもんだろう。遊びにも、いろいろあるが、これは、一番あたりまえの丁半だ。この街の堅気の旦那衆も、たくさん見えてござる。どんな素人でも、すぐに覚えられるという奴だ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「なア、あんちゃ、犬ど狼どどっちえんだ。——犬だな。」
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「貴方の家のあんちゃんも、出征なすったんだってネ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ヨーギ。天王寺さ行って、糯米もちごめ買ってうちゃ。あんつあんさ、百合ゆりぶかしでもしてせべし。」
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「ヤア、石金の小父ちゃんだ! 鳶由とびよしあんちゃんだ! ああ、長屋の細野先生もいる」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「とんでもねえ、あんちゃん、そりゃあ、考えちがいだ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
あんさん、もう皆やすみませうつて。」
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「はれあんさんもう浜さいくだね」
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「何を言やんで、とんちきメ! 情知らず! このあんちゃんの身にもなってみねえ。好きや道楽で町に立って、こんなことをしてるんじゃアねえや。親をさがしあてようッて一心なんだ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あんつぁんの銭は、酒呑んだ銭だからんだ。」
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「おう、あんちゃん、おいらにも一ぺえくんな。酢をきかしてナ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)