僭上せんじょう)” の例文
おおき蝦蟆がまとでもあろう事か、革鞄の吐出した第一幕が、旅行案内ばかりでは桟敷さじきで飲むような気はしない、がけだしそれは僭上せんじょうの沙汰で。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金持の連中もまた、もうけたい奴は盛んに儲け、儲けた上に莫大の配当をしました。そうして、大ビラで贅沢ぜいたく僭上せんじょうの限りを尽しました。
「王平の奴、遂におれの指図に従わんな。凱旋がいせんの後は、丞相の前へ出で、彼の僭上せんじょうと軍律にそむくの罪をきっと問わねばならん」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼長はそれをひと目見て、彼女の僭上せんじょうを責めるよりも、こうした仰々ぎょうぎょうしい姿にいでたたせた兄忠通の非常識に対して十二分の憤懣いきどおりを感じた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「伊勢屋新六の増長は目に余りましたよ。町人のおご僭上せんじょうは、いずれおとがめものですが、伊勢新は悪く悧巧りこうで、なかなか尻尾を出しません」
「なまいきなことを云ってはいけない」保馬が云った、「客がいるのに奢るということがあるか、僭上せんじょうというものだぞ」
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僭上せんじょう至極の沙汰に存ぜられまするが、某、思いまするに、幕府は最早、諸大名に対し、その勢力を失墜しておりまする。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
自分の怪しう物狂おしいこの一篇の放言がもしやそれと似たような役に立つこともあれば、それによって幾分か僭上せんじょうの罪が償われることもあろうかと思った次第である。
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今でもすでに万遍なくり切れて、竪横たてよこの筋は明かに読まれるくらいだから、毛布と称するのはもはや僭上せんじょうの沙汰であって、毛の字ははぶいて単にットとでも申すのが適当である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(微笑)伴天連ばてれんのあなたを疑うのは、盗人ぬすびとのわたしには僭上せんじょうでしょう。しかしこの約束を守らなければ、(突然真面目まじめに)「いんへるの」の猛火に焼かれずとも、現世げんぜばちくだる筈です。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「よしや、直筆じきひつなるにもせよ、一老中のご意見で、法をうごかすなどという例はない。もってのほかな僭上せんじょうというものであろう」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「黒餡の安菓子……子供だまし。……詩歌にお客分の、黄菊白菊に対しては、いささ僭上せんじょうかも知れぬのでありますな。」
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「王国なんて、ずいぶん僭上せんじょうな呼び方かも知れませんが、不破ふわの関守さんが、冗談におつけになったんですから、お気になさらないでお聞き下さい」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
申上げるのは僭上せんじょうではございますけれど、お父うえ安房守あわのかみさまの御心底はいかがでありましょうか、世のありさまを
日本婦道記:忍緒 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつの代にも絶えない金持の僭上せんじょうから、自分も一度は鷹が飼ってみたいと望んでいることを、辰蔵はかねて知っていたので、とうとう吉見をそそのかして
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
本人は大通だいつう中の大通のような心持でいるのですが、金持の独りっ子らしく育っている上に、人の意見の口をふさぐ程度に才智が廻るので、番頭達も、親類方も、その僭上せんじょうぶりを苦々しく思いながら
「ゆめ、さような僭上せんじょうではございません。ただこの御戦みいくさを、いかにせば、勝目かちめとしうるか、それのみにござりますれど」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泰平には余り使いどころのない役だったが、それがかえって「側近の衛士」という虚名と結び着いて、傍若無人、横着僭上せんじょう、高慢不遜ふそんの気風をそそるようになり
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
台所の豪傑儕ごうけつばら座敷方ざしきがた僭上せんじょう栄耀栄華えようえいがいきどおりを発し、しゃ討て、緋縮緬ひぢりめん小褄こづまの前を奪取ばいとれとて、かまど将軍が押取おっとった柄杓ひしゃくの采配、火吹竹の貝を吹いて、鍋釜の鎧武者が
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしはもううの昔に、人の主人たる地位をのがれた、同時にただ一人の人をも家来とし、奴隷とするような僭上せんじょうを捨てた、わたしを殿様呼ばわりするは、それは昔からの口癖が
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふたつには袁紹が帝位をのぞむ僭上せんじょうを懲らし、すべて彼らが企むところの野心を未然に粉砕してお目にかけまする
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどもまた、よくよく考え直してみると、そう思うのはむしろ僭上せんじょうだという気がした。祝言の夜の寝所で、あの方がわたくしに与えたものは愛でもなさけでもなかった。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「何を——この忘八者くるわものめが、武士に向って僭上せんじょう至極!」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僭上せんじょうだよ、無礼だよ、罰当り!
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一かれらが槍術をやるのからして僭上せんじょうだ、ちょっと槍の持方でも覚えると、もういっぱしの武士にでもなり兼ねないつらつきで、肩を怒らしてのしまわる、雑草は端から刈るべきだ
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「およしなされ、またらざる僭上せんじょう沙汰と、あとになって殿のお叱りをうけまするぞ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「勅命をもうけず、早々、途上において戦端をひらき、僭上せんじょうの罪かろからずと、ひそかに恐懼きょうくしておりましたのに、もったいない御諚をたまわり、臣は身のおくところも存じませぬ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『できるからする』という気持がゆるしがたい僭上せんじょうだということに気づきました。
日本婦道記:尾花川 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれどよくよく考えてみると、長谷川、前田などの傅役のほかに、秀吉も幼君の輔佐ほさたるべしとは、昼の会議でみなが衆判の下に認めていたことである。僭上せんじょうなり——とはとがめられない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしはいま「むらた」の離れでこれを書いているが、初めて寮へ火をつけたときのような、張り詰めた気持はなく、むしろ恥ずかしさと、自分が僭上せんじょうだった、というおもいで苦しんでいる。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分の父の黄琬こうえんは、むかし李傕りかく郭汜かくしが乱をなした時、禁門を守護して果てた忠臣です。その忠臣の子がいまは、心にもなく、僭上せんじょう奸賊かんぞくの権門に屈して、その禄をんでいるとは実になさけない。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、独断にて取りきめるなど、僭上せんじょう至極。立ち帰って、筑前に左様申せ
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だまれっ、陪臣の身をもって、あまりと申せば、僭上せんじょうな」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)