仮令たと)” の例文
旧字:假令
仮令たとい又私が奮発して、幕府なり上方かみがたなり何でも都合のい方に飛出すとした処が、人の下流について仕事をすることはもとより出来ず
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
目科は「出来るとも僕が此事件の詮鑿を頼まれて居るでは無いか仮令たとい夜の夜半よなかでも必要と認れば其罪人に逢い問糺といたゞす事を許されて居る」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
属吏ならば、仮令たとい課長の言付を条理と思ったにしろ思わぬにしろ、ハイハイ言ってその通り処弁しょべんして往きゃア、職分は尽きてるじゃアないか。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
仮令たとえば、何か急に客用のものを借りたい場合、病気で薬を頼みたい場合、決して調法でないことはない。が又、一方では、可成困ることがある。
又、家 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
仮令たとへば露国が列国へ通牒を発して日本ママ開戦態度と韓国に対する行動が公法違反なるを風聴すれば、直ちに我政府も亦之が反駁と弁妄の労を採り
独り洋外の文学技芸を講究するのみにてその各国の政治・風俗如何いかんつまびらかにせざれば、仮令たとひ、その学芸を得たりとも、その経国けいこくの本にかえらざるをもつて
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
仮令たといこの樹の花が露に湿うていても、これを望んで見るに一向に露を帯びている様な感じのせぬ花である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
然り、第一第二の別はたゞ我が弁説の上に煩なきの故を以てしか称呼したるのみ。人は仮令たとへば樹木の如し。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
仮令たとへば「財産は盗奪なり、」といふ思想を代表してゐる社会主義者或は無政府主義者の中にすら留針半ダース程の価を返済しないといふので怒り出す者がある。
婦人解放の悲劇 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
仮令たとえばかかる場合「すみませんが、御面倒でも、下まで」と云えば、私は、下へ行かんでも無い。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
れば小児を丈夫に養育せんとならば、仮令たとい巨万の富あるも先ず其家を八瀬大原にして、之に生理学問上の注意を加う可きのみ。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
余が無罪の証拠と見認みとむる者はこと/″\く有罪の証拠なり細君の言葉は仮令たとい目科の評せし如く幾分か「小説じみ」たるに相違無しとするも道理に叶わぬ所とては少しも無し
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
今の時刻、あなたもきっとこの午後の光線を仮令たとえば霜柱の立った土の上に眺めていらっしゃるのではないかしら。或は冬らしくすこし曇りを帯びた空を眺めていらっしゃる?
いっそ叔母の意見に就いて、廉耻も良心も棄ててしまッて、課長の所へ往ッて見ようかしらん。依頼さえして置けば、仮令たとえば今が今どうならんと云ッても、叔母の気が安まる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
書籍ハ植物記載〔所載ノ意ナリ〕ノ書ニシテ仮令たとヒ鶏肋ノ観ヲ為スモノト雖ドモ悉ク之ヲ渉猟閲読スルヲ要ス故ニ植学ヲ以テ鳴ラント欲スルモノハ財ヲおしム者ノ能ク為ス所ニアラザルナリ
仮令たとい議論をすればとて面白い議論のみをして、例えば赤穂あこう義士の問題が出て、義士は果して義士なるか不義士なるかと議論が始まる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
サアと成る迄は仮令たとえ長官にもしらさぬ程だけれど君は先ずわしが周旋で此署へもいれやった者ではあるし殊に是がいくさで言えば初陣の事だから人に云われぬ機密を分けて遣る其所の入口を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
悪ければ良くしようというが人の常情で有ッてみれば、仮令たとえ免職、窮愁、耻辱ちじょくなどという外部の激因が無いにしても、お勢の文三に対する感情は早晩一変せずにはいなかッたろう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私が仮令たとえば、愛する良人を持って、その愛に対する本能的な純粋さを持ち、希望し、勿論そのために総ての誘惑は可抗的なものであっても、若し泥棒や何かに強姦されでもした場合
無題(三) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もしもその本心に問うてこころよからざることあらば、仮令たとえ法律上に問うものなきも、何ぞ自ら省みて、これを今日に慎まざるや。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
余若し罪人ならばたゞ彼れの一言に奮い起き仮令たとい何れほどの疑いに囲まれようとも其の疑いを蹴散して我身の潔白を知せ呉れんと励み立つ所なり、は云え目科は気も気に非ず
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
文学上の作品に現われる自然や人生は、仮令たとえば作家が直接に人生に触れ自然に触れて実感し得た所にもせよ、空想で之を再現させるからは、本物でない。写し得て真にせまっても、本物でない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
仮令たとい役人にならぬでも、かくに政府に近づいて何か金儲でもしようと云う熱心で、その有様ありさまは臭い物にはえのたかるようだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私しが説明して仕舞う迄は此へ誰れも入れぬ事に仕て下さい小使其他は申すに及ばず仮令たとい谷間田が帰って来るとも決して無断では入れぬ事に(荻)好々よし/\谷間田はお紺の隠伏かくれて居る所が分ったゆえ午後二時までには拘引して来るとて今方出て行たから安心して話すが好い
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そもそも我輩がここに敬の字を用いたるは偶然にあらず。男女肉体を以てあいせっするものなれば、仮令たとえいかなる夫婦にても一時の親愛なきを得ず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
仮令たとい或は表面に衝突せざるも、内心相互に含む所ありて打解けざるは、日本国中の毎家殆んど普通と言うも可なり。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
仮令たとい戸外の業務あるも事情の許す限りは時をぬすんで小児の養育に助力し、暫くにても妻を休息せしむ可し。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
其婦人が仮令たとい之を外面に顕わさゞるも、心中深き処に何か不平を含み、時として之を言行に洩らすことありとて、其心事微妙の辺を推察したるものならんか。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これを思出して何か面白きくわだてもあらば、老生の生前において之を喜ぶのみならず、仮令たとい死後にても草葉の蔭より大賛成を表して知友の美挙に感泣することあるべし。
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
仮令たと不言ふげんの間におのずから区別する所ありとするも、その教えの方法に前後本末を明言せずして、時としては私徳を説き、また時としては公徳を勧め、いずれか前
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ企望きぼうする所は、仮令たといその子を学校に入るるにもせよ、あるいは自宅にて教うるにもせよ、家の都合次第、今時の勢いにては才学に欠点なき父母も少なからん
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かかる有様にては、仮令たといその子を天下第一流の人物、第一流の学者たらしめんと欲するの至情あるも、人にいわれぬ至情にして、おそらくは事実には行われ難からん。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もとより官軍の何ものたるを知らず、仮令たとい東征の名義云々うんぬんは伝聞するも、その官軍なるものが江戸に入たる上は何等の挙動あるべきや、これを測量することはなはやすからず。
故社員の一言今尚精神 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
仮令たといあるいは学校に入れ他人に託するも、全くこれを放ちて父母教育の関係を絶つべからずと。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
左れば父母が其子を養育するに、仮令たとい教訓の趣意は美なりとするも、女子なるが故にとて特に之を厳にするは、男女同症の患者に対して服薬の分量を加減するに異ならず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
又子の方より言えば仮令たとい三十年二十五年以上に達しても、父母いますときは打明け相談して同意を求むるこそ穏なれ。法律は唯極端の場合に備うるのみ。親子の情は斯く水臭きものに非ず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
はなはだしきはその俗物の干渉を被り、催促を受けながら、学事を研究せんとするが如き、その無益たるはうまでもなく、仮令たとあるいは世間有志者の発意を以て私に資金を給せんとする者あるも
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)