九十九折つづらおり)” の例文
……(焼撃やきうちをしたのも九十九折つづらおりの猿が所為しわざよ、道理こそ、柿の樹と栗の樹は焼かずに背戸へ残したわ。)……などと申す。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほんとうにそれは八幡の藪知らずのような、目もあやにややっこしい「芸」の怪鳥けちょうなく深山幽谷であり、九十九折つづらおりだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
くねくねした九十九折つづらおりをあちらへめぐり、こちらへ𢌞まわっているうちに、何所どこともなくすざまじい水音みずおとひびいてまいりました。
とばかり、天王の生垣に沿うて金杉下町、真光寺の横から町屋村の方へ、彼は女を伴れて九十九折つづらおりに曲って行った。
信濃金梅しなのきんばいのようであったが、側まで行って確める程の勇気はなかった。道は急に爪先上りとなって、ぶなならの大木が茂った中を九十九折つづらおりに上っている。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
九十九折つづらおりの薄暗い迷路の中で、道に迷って泣き出しそうになっていた折も折、隙見も叶わぬ立木の壁の、つい二重三重ふたえみえ向側で、恐ろしい事件が起ったのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
熱海へ下る九十九折つづらおりのピンヘッド曲路では車体の傾く度に乗合の村嬢の一団からけたたましい嬌声が爆発した。
箱根熱海バス紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夏の山路は九十九折つづらおりで夜道は自動車も危険だが、冬は谷が雪でうづまり夜も雪明りで何心配なく橇が谷を走るのだ。そのうちに村の娘を孕まして問題を起した。
禅僧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
しかも播磨路はりまじからは、備中びっちゅう美作みまさか伯耆ほうき出雲いずも、ほとんどが峠や九十九折つづらおりの山旅にござりまする。しょせん牛車などは曳かれません。風雨の日もありましょう。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見上げるところの九十九折つづらおりの山路からおもむろに下りて来るのは、桐油とうゆを張った山駕籠やまかごの一挺で、前に手ぶらの提灯を提げて蛇の目をさしたのは、若い女の姿であります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
天長節に上った峠、それと同じ道で、通例曲折の烈しきところを、よく九十九折つづらおりなどと形容するが、ここは実に二百余を数えた。あいにくの霧は南の空を掩うて、雪の峰は少しも見えない。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
九十九折つづらおりになったその急坂を小走りに走り降ると、坂の根にも同じ様な村があり、普通の百姓家と違わない小学校なども建っていた。対岸の村は生須村、学校のある方は小雨村と云うのであった。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
今一つ奥なる滝に九十九折つづらおり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
軽い雨で、もうおもてを打つほどではないが、引緊ひきしめたたもと重たく、しょんぼりとして、九十九折つづらおりなる抜裏、横町。谷のドン底のどぶづたい、次第に暗き奥山路おくやまみち
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏の山路は九十九折つづらおりで夜道は自動車も危険だが、冬は谷が雪でうずまり夜も雪明りで何心配なく橇が谷を走るのだ。そのうちに村の娘をはらまして問題を起した。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
九十九折つづらおりの一筋道、逃げる横道も隠れる場所もないので、お延が狼狽うろたえている間に、黒頭巾の男は息せわしくれ違うまで側へ来たが、二人の姿を見ると、先も突ッ立ってしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千ヶ滝から峰の茶屋への九十九折つづらおりの坂道の両脇の崖を見ると、上から下まで全部が浅間から噴出した小粒な軽石の堆積であるが、上端から約一メートルくらい下に、薄い黒土の層があって
浅間山麓より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこから東へ切れて舟地ふなちの町で三春川を渡り、九十九折つづらおりの相馬街道を無我夢中のうちに四里半、手土てつち一万石立花出雲守の城下を過ぎ、ふたたび夜の山坂を五里半……いのちがけに走りとおして
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
九十九折つづらおりのような形、流は五尺、三尺、一間ばかりずつ上流の方がだんだん遠く、飛々とびとびに岩をかがったように隠見いんけんして、いずれも月光を浴びた、銀のよろいの姿
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
禅僧のたどたどしい足どりがそれでも十間ぐらいの距離まで旅人に近づいた時のことだが、旅人は九十九折つづらおり山径やまみちのとある曲路にさしかかった。一方は山の岩肌、一方は谷だ。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
二人は今、九十九折つづらおりの岩角に腰かけていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わずかの間も九十九折つづらおりの坂道、けわしい上に、なまじっか石を入れたあとのあるだけに、爪立つまだって飛々とびとびりなければなりませんが、この坂の両方に、五百体千体と申す数ではない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
九十九折つづらおりの山路をひたうねりにうねつて山の完全な頭上まで辿りついてしまふのだが、そこから更らに眼下に向つてうねうねとくだり、再び山のどん底へまひ戻つたところが松の山温泉で
逃げたい心 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
西南せいなん一帯の海のしおが、浮世の波に白帆しらほを乗せて、このしばらくの間に九十九折つづらおりある山のかいを、一ツずつわんにして、奥まで迎いに来ぬ内は、いつまでも村人は、むこうむきになって
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
通りこして九十九折つづらおりを降りて行くとT部落の停留場へでるのですよ。ここから鉱泉宿まで、半里余り、鉱泉宿からT部落までは、一里まではありませんが、合計して一里半ちかくはあるでしょう
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
真北の海に向って山の中腹にあるんだから、長い板廊下を九十九折つづらおりとった形に通るんだ。——知っているかも知れないが。——座敷は三階だったけれど、下からは四階ぐらいに当るだろう。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰一人ほとんど跫音あしおとを立てなかった処へ、屋根は熱し、天井は蒸して、吹込む風もないのに、かさかさと聞こえるので、九十九折つづらおりの山路へ、一人、しの、熊笹を分けて、嬰子あかご這出はいだしたほど
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)