三下さんさが)” の例文
故に三下さんさがりの三味線で二上にあがりを唄うような調子はずれの文章は、既に文章たる価値あたいの一半を失ったものと断言することを得。
なるほど娑婆に居る時に爪弾つまびき三下さんさがりか何かで心意気の一つも聞かした事もある 聞かされた事もある。忘れもしないが自分の誕生日の夜だった。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
庭前では、道場を開放して四民の間に武術を奨励するかと見れば、奥の間ではしきりに三味線の三下さんさがり、それも、聞いていれば、今時のはやり唄
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「根岸の梅屋敷——龜戸梅屋敷と違つて、此處は御隱殿裏で、宮家住居の近くだから、藪鶯やぶうぐいすだつて三下さんさがりぢや啼かねえ。しやう篳篥しちりきに合せてホウホケキヨ——」
と思えば先生の耳には本調子も二上にあがりも三下さんさがりも皆この世は夢じゃあきらめしゃんせ諦めしゃんせと響くのである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女は羽左衛門と、三下さんさがり、また二上にあがりの、清元きよもと、もしくは新内しんない歌沢うたざわの情緒を味わう生活をもして来た。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お久はいと三下さんさがりにして地唄じうたの「あやぎぬ」をうたっていた。老人はこの唄が好きなのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今も歌ふは当初そのむかし露友ろゆう未亡人ごけなる荻江おぎえのお幾が、かの朝倉での行違ゆきちがいを、おいのすさびにつらねた一ふし三下さんさがり、雨の日を二度の迎に唯だ往き返り那加屋好なかやごのみ濡浴衣ぬれゆかたたしか模様は染違そめちがえ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
入相いりあひかねこゑいんひゞきてねぐらにいそぐ友烏ともがらす今宵こよひ宿やどりのわびしげなるにうつせみのゆめ見初みはじめ、待合まちあひ奧二階おくにかい爪彈つめびきの三下さんさがすだれるゝわらごゑひくきこえておもはずとま行人ゆくひと足元あしもとくる煩惱ぼんなういぬ尻尾しつぽ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つまり菖蒲あやめ浴衣ゆかた三下さんさが
都々逸どゞいつ三下さんさがり、大津絵おおつえなどを、いきな節廻しで歌われると、子供ながらも体内に漠然と潜んで居る放蕩の血が湧き上って、人生の楽しさ、歓ばしさを暗示されたような気になります。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これによって三囲堤の下にあった葛西太郎かさいたろうという有名な料理屋は三下さんさがりの俗謡に、「夕立や田をみめぐりの神ならば、葛西太郎の洗鯉、ささがかうじて狐拳きつねけん。」とうたわれていたほどであったのが
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
兵部の娘は、三下さんさがりの調子で、胡琴を鳴らしてみました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吹けよ河風上れよすだれ三下さんさがりにめやうたえの豪遊を競うものはまれであったが、その代り小舷こべり繻子しゅす空解そらどけも締めぬが無理かと簾おろした低唱浅酌ていしょうせんしゃく小舟こぶねはかえっていつにも増して多いように思われた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)