麻裏あさうら)” の例文
若い人は、いせいよく声をかけながら、新しい麻裏あさうらぞうりで要吉のまいた水の上を、ひょいひょいとひろあるきにとんでいきました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
「八、金藏は麻裏あさうら草履をはいて、手拭を冠つて、鍬を持つて行つたんだぜ、——財布さいふは持つてゐなかつた筈だ。四日後に傳助が盜んだから」
それから店へ行っては、鑵詰かんづめを三つと、白砂糖を一袋と赤いレザーの緒のついた麻裏あさうらを一足、すばやく風呂敷にくるんで、たもとの影にかくすようにして私をつれて家を出た。
吉原かぶり、みじん柄の素袷すあわせ、素足に麻裏あさうらを突っかけた若い男、弥蔵やぞうをこしらえて、意気なこえで
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
格子を開けようとしてのぞくと、見れない麻裏あさうらが一足、かれの帰りを待ち顔に並んでいる。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御存じでせう、其穢多は今でも町はづれに一団ひとかたまりに成つて居て、皆さんの麻裏あさうらつくつたり、靴や太鼓や三味線等をこしらへたり、あるものは又お百姓して生活くらしを立てゝ居るといふことを。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あねさま唐茄子とうなすほうかふり、吉原よしはらかふりをするもり、且那だんなさまあさよりお留守るすにて、お指圖さしづたまおくさまのふうれば、小褄こづまかた友仙ゆふぜん長襦袢ながじゆばんしたながく、あか鼻緒はなを麻裏あさうらめして、あれよ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此の三人を正面にして、少しさがりて左手ゆんでには一様に薄色うすいろ裾模様すそもようの三枚がさね、繻珍しゆちんの丸帯、髪はおそろひ丸髷まるまげ、絹足袋に麻裏あさうらと云ふいでたちの淑女四五人ずらりと立ち列ぶは外交官の夫人達。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
大抵は朝早くで、伯父は軽い麻裏あさうらを穿き、ステッキを携へて悠々と歩いた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
二人は千筋せんすじの手織り木綿の袷に双子縞の羽折はおり、小倉の角帯をしめ、麻裏あさうら草履をはいていた。ちょうど黄昏たそがれどきで、人の往来の多い小舟町の通りを東のほうへ、かくべつ目的もなくあるいていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
磯吉はふいと起って土間に下りて麻裏あさうらを突掛けるや戸外そとへ飛び出した。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
紺の前掛 麻裏あさうら草履。
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
小三郎は殊勝らしく仏様の前で線香などを上げて居りましたが、麻裏あさうらを突っかけて気軽にヒョイと顔を出しました。
吉原冠り、下ろし立ての麻裏あさうらの音もなく、平馬の後からついて行く闇太郎——、河岸は暗し、頃は真夜中。いい気持そうに、弥蔵やぞうをきめて、いくらか、皺枯しゃがれた、さびた調子で
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
今までどこにひそんでいたのか、しまの着物に股引ももひ腹掛はらがけ、頭髪あたまも変えて、ちょいと前のめりに麻裏あさうらを突っかけて、歩こうかという、すっかり職人姿の舞台いたに付いているこの喬之助である。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
紺の前掛 麻裏あさうら草履
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
小三郎は殊勝らしく佛樣の前で線香などを上げてをりましたが、麻裏あさうらを突つかけて氣輕にヒヨイと顏を出しました。
紺の前掛 麻裏あさうら草履
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
平次はさう言ふうちにも手早く仕度を整へて、十手を一本ふところにブチ込むと、鼻緒はなをの堅い麻裏あさうらを突つかけるのです。
帯をキュッと締め直すと、白磨きの十手を手拭に包んで懐の奥へ、麻裏あさうらを突っかけて、パッと外へ飛出します。
捕繩をたもとに落して、十手を懷中に、單衣ひとへの裾を七三に端折つて、新しい麻裏あさうらを突つかけます。
「それも、女の下駄なんかぢやありません。職人や遊び人の履く麻裏あさうらで踏んでありました」
「真新しい麻裏あさうらだよ。——雪の降る前に飛出して、大降りになってから帰ったんだろう」
そんなことを言ひながら八五郎は、錢形の親分が、わざ/\さそつてくれたのが嬉しくてたまらないらしく、帶を締め直して麻裏あさうらを突つかけて、押し並んで下谷長者町に向ひました。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
麻裏あさうらを突っかけて行って、お勝手からい上がり、出刃庖丁を捜したが見えなかった。仕方がないから、拳骨げんこつで脅かすつもりで障子を開けると、周助は一と足先に斬られて血の海の中に死んでいた。
麻裏あさうらを穿いて、白磨しろみがきの十手をふところに落します。