馬喰町ばくろちょう)” の例文
半七はそれから日本橋の馬喰町ばくろちょうへ行った。死骸の服装みなりからかんがえて、まず馬喰町の宿屋を一応調べてみるのが正当の順序であった。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
助「馬喰町ばくろちょうにも知った者は有るが、うちを忘れたから、春見様が丁度彼所あすこに宿屋を出して居るから、今着いて荷を預けて湯にいりに来た」
駕籠は、早めもせずゆるめもせず、ころ合な速度で、松枝町から馬喰町ばくろちょうの方へ東をさしてゆくのだった。闇太郎は首を振ってつぶやいた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私が住っていた近くの、浅草から両国馬喰町ばくろちょう辺の事ですか——さようさね、何から話して好いか——見世物ですな、こういう時代があった。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
目端めはしの利くところから、主人に可愛かわいがられ、十八までそこの奥向きの小間使として働き、やがて馬喰町ばくろちょうのある仕舞しもうた家に片着いたのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
兵馬は多分、これから思い起した七兵衛の言葉の端をたどって、馬喰町ばくろちょうの大城屋というのへ相談に行くのかも知れない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
馬喰町ばくろちょうの和田平から今年の初刷りに出したのが大受け、二巻で大尾としたところが看客みなさまやいのやいののお好みにより巻を重ねること六たび
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
親父は馬喰町ばくろちょうの方に宿を取っておりまして毎日、柳原、日陰町界隈かいわいの問屋筋で出物をあさっておりましたのでございますが、そう申してはなんでございますが
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
馬喰町ばくろちょう井筒嘉七いづつかしち、さては吉原大門前の平松などに変名変装で泊まり込んでいることはとうに調べがついているのだが、顔の識れない連中が多いし、なまりも
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その斜向すじむこうに花屋があった。剥身むきみのように幅の広がった顔と体の妹と姉とがいた。二人がいるうちは花屋の店もよけいにぎやかに見えたが、馬喰町ばくろちょう郡代ぐんだい矢場女やばおんなになってしまった。
馬喰町ばくろちょうの辻まで行くと、吉原通いの夜明し駕籠や駄賃馬が、焚火たきびをかこんでたむろしていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬喰町ばくろちょう辺りの旅籠さして戻り行く後ろ姿にうすづいている暮春の夕日の光を見てとれる人
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
半蔵らがめざして行った十一屋という宿屋は両国りょうごくの方にある。小網町こあみちょう馬喰町ばくろちょう、日本橋数寄屋町すきやちょう、諸国旅人の泊まる定宿じょうやどもいろいろある中で、半蔵らは両国の宿屋を選ぶことにした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし電車のとおっている馬喰町ばくろちょうの大通りまで来て、長吉はどの横町を曲ればよかったのか少しく当惑した。けれども大体の方角はよく分っている。東京に生れたものだけに道をきくのがいやである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
挙句あげくが江戸の馬喰町ばくろちょうに落付いて旅籠屋はたごやの「ゲダイ」となった。
私の生れた馬喰町ばくろちょうの一丁目から四丁目までの道の両側は、夜になるといつも夜店が一杯に並んだものだった。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
宿ですか、馬喰町ばくろちょう相模屋さがみやてえのに旅籠をとっていますから、どうぞひとつくれぐれもお願いします。
そう綺麗きれいさっぱりとくぎりをつけるわけにはゆかないと見え、お角に興行界を引退の意志があると見て、やれ馬喰町ばくろちょうに宿屋の売り物があるから引受けてみないかの
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
享保きょうほう三年の冬は暖かい日が多かったので、不運な彼も江戸入りまでは都合のいい旅をつづけて来た。日本橋馬喰町ばくろちょうの佐野屋が定宿じょうやどで、しゅうと家来はここに草鞋わらじの紐を解いた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
兄の次郎は九つで、馬喰町ばくろちょう旅籠屋はたごやに奉公していた。彼も前借がかさむため、そこが三度めの奉公であったが、自分では一文の小遣も自由にならない、と不平を云っていた。
一日おいて又六日に出火致しましたのが神田旅籠町から佐久間町を残らず焼払い遂に浅草茅町かやちょう二丁目まで延焼し、見附を越して両国へ飛火とびひ致し、両国一面火になって、馬喰町ばくろちょうを焼き
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
附木店は浅草見附みつけ内の郡代——日本橋区馬喰町ばくろちょうの裏と神田の柳原河原のこっちうらにあたっている。以前もとは、日本橋区の松島町とおなじ層の住民地で、多く願人坊主がんにんぼうずがいたのだそうだ。
祭りを見せるといって、馬喰町ばくろちょう旅籠はたごから、お信を連れて、出あるいていた繭買まゆかいの銀六老人は、お信には、分らぬ、知れぬ、とばかりいっていた丈八郎の行動を、どうして、そう心得ているのか
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『読売』では中坂まときの時分に、若菜貞爾(胡蝶園)という人が出て小説を書いたが、この人は第十二小区(いまの日本橋馬喰町ばくろちょう)の書記をしていた人であった。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
お前はこれから手をまわして、この近所で池鯉鮒ちりゅう様の御符おふだ売りの泊っているところを探してくれ。馬喰町ばくろちょうじゃああるめえ。万年町辺だろうと思うが、まあ急いで見つけて来てくれ。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「……慌てなくってもいいんだよ、また少し風が変って、火先が西へ向ってるからね、こっちはたぶん大丈夫だろうって、うちじゃあいま馬喰町ばくろちょうのおとくいへ見舞いに出ていったよ」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お前が左様そう諦めてくれゝば結構な訳というもんで……、実はな、大阪の商人あきんど越前屋佐兵衞えちぜんやさへえさんてえのが、御夫婦連で江戸見物に来ていなさるそうでの、なんでも馬喰町ばくろちょうに泊ってると聞いたよ
「それから兵馬様、もし何かまた御相談事が出来ましたらば、私は明後日あさってまで馬喰町ばくろちょうの大城屋というのに逗留とうりゅうをしておりますから、甲州谷村やむらのおやじとでもおっしゃっておたずね下さいまし」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日本橋区馬喰町ばくろちょうの裏に郡代ぐんだいとよぶ土地があって、楊弓や吹矢ふきやの店が連なった盛り場だったが、徳川幕府の時世に、代官のある土地の争いや、旗本の知行地ちぎょうちでの訴訟は、この郡代へ訴えたものとかで
私のいた日本橋馬喰町ばくろちょうの近くには、秩父屋という名高い凧屋があって、浅草の観音の市の日から、店先きに種々の綺麗きれいな大きな凧を飾って売り出したものであった。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
これも中村座見物の連中で、十五人づれで馬喰町ばくろちょうの下総屋に宿を取っていたのです。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
種々いろ/\お世話様、有り難う存じました、孝助や種々話もしたい事があるから斯うしよう、私は今馬喰町ばくろちょう三丁目下野屋しもつけやという宿屋に泊っているから、お前よ一ト足先へ帰り、供を買物に出すから
馬喰町ばくろちょうに森口屋といって、足袋、股引ももひき、小間物などの卸屋がある。十兵衛はその店で勤めあげたが、二十一でお礼奉公の終るちょっとまえ、女にだまされてかなり多額な金を遣いこんでしまった。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
森「馬喰町ばくろちょう三丁目の田川たがわきましょう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)