はなれ)” の例文
研究が進んで来ると復一は、試験所の研究室と曲もの細工屋のはなれの住家とを黙々として往復する以外は、だんだん引籠ひきこもり勝ちになった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
下等船客かとうせんきやくいち支那人シナじんはまだ伊太利イタリー領海りやうかいはなれぬ、ころよりくるしきやまひおかされてつひにカンデイアじまとセリゴじまとのあひだ死亡しぼうしたため
事ともせず日々ひゞ加古川の渡守わたしもりしてまづしき中にも母に孝養怠らざりし其内老母は風の心地とてふしければ兵助は家業かげふやすみ母のかたはらをはなれず藥用も手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今度引移りましたのは今戸の小さい家で、間かずは四間よまのほかに四畳半のはなれ屋がありまして、そこの庭先からは、隅田川がひと目に見渡されます。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
島崎村しまざきむらの木村の旦那だんながいつてをらつしやつたが、あそこの屋敷の中に小さいはなれがあるさうで、よかつたら良寛さんに、はいつてもらひたいげなが。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
母屋の方から人声がして、母を真先に女中や下男が、このはなれへやって来た時も、なお鼬は駆け廻っていた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
町から少しはなれ家根やね処々ところどころに見える村だ。空は暗く曇っていた。おしまという病婦が織っているはたの音が聞える。その家の前に鮮かな紫陽花あじさいが咲いていて、小さな低い窓が見える。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
慌てて茶代の礼を云いに来た亭主が、妙な顔をして二人を別のはなれ座敷に案内した。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
天陽てんやうはなれ降下ふりくだり地にかへれば天やうまろかたどりうせて地いんかくなる本形ほんけいかたどる、ゆゑに雪頽なだれは千も万も圭角かどだつ也。このなだれとけるはじめは角々かど/\まろくなる、これ陽火やうくわの日にてらさるゝゆゑ天のまろきによる也。
はなれの小宴ささの雪に
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)