閑却かんきゃく)” の例文
むしろ、主人が帰るとロオラはみんなから閑却かんきゃくされるのでしょう。そうしてロオラは主人に馴れるひまもなく、また好まないのです。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
俊助は黙ってうなずいたまま、しばらく閑却かんきゃくされていた埃及煙草エジプトたばこへ火をつけた。それから始めてのびのびと椅子いすの背に頭をもたせながら
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども一文芸院を設けてゆうにその目的が達せられるように思うならば、あたかも果樹の栽培者が、肝心の土壌どじょうを問題外に閑却かんきゃくしながら
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日における我々日本の青年の思索しさく的生活の半面——閑却かんきゃくされている半面を比較的明瞭めいりょうに指摘した点において、注意にあたいするものであった。
寺田さんはそういう現象のうちにも常に閑却かんきゃくされた重大な問題を見出していった。が更にいっそう具体的な日常の現実は人間の現象である。
寺田寅彦 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
閑却かんきゃくされていた七兵衛はここで紙包をポンと突き返して、呼びかけた声がズンと鋭かったので、切髪の女はひょいと振返って七兵衛を見ます。
その不忠節は、前代義輝よしてる将軍も同様であったが、わけても当今至尊しそんにつかえまつる念がうすく、幕臣どもみな王事を閑却かんきゃくしているふうがある。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを実際に行わないで、文字そのものを美術的にもてあそんで、儒教の精神そのものはとん閑却かんきゃくされるようになったのである。
柳は桜と共に春来ればこきまぜて都の錦を織成おりなすもの故、市中しちゅうの樹木を愛するもの決してこれを閑却かんきゃくする訳にはくまい。
だが、我々は河の流れというものを閑却かんきゃくしてはいなかったであろうか。大川はUの上部から下部に向って流れているのだ。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
われわれは少年諸君にあたえられた、この教訓を閑却かんきゃくしてはなりません、わたくしはいま世界平和の天使として、少年連盟を礼賛らいさんしたいと思います
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
りに機械にたとえるとの機械は、一個所、非常に精鋭な部分があり、あとは使用を閑却かんきゃくされていると言ってい。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この場合において、閑却かんきゃくされた幼児の欲望が本能が、ひとりでにほしいままなるものになってしまうわけである。
たましいの教育 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
何ほど便利だか知れないぜ。僕はこの事を天下の西洋料理屋へ勧告したい。西洋料理屋はともかくも素人しろうとうちで西洋料理を出す時に何をくるしんで箸を閑却かんきゃくするか。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
二人はそれぎり大井を閑却かんきゃくして、嵐山あらしやまの桜はまだ早かろうの、瀬戸内せとうちの汽船は面白かろうのと、春めいた旅の話へ乗り換えてしまった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
選にれたる他は全く一般から閑却かんきゃくされるの結果として、いとうべき弊害の続出せん事を余は切に憂うるものである。
博士問題の成行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
与八は只管ひたすらに、自分のみが悪いことをしたと恐懼きょうくして、行燈の下へ持って来て、ひねくってみましたが、その時まで閑却かんきゃくされていたのは絵馬のおもてです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これを一方から云うと、誰も知っている様な極く極くあからさまな場所は、犯罪などの真剣な場合には、却って閑却かんきゃくされ気附かれぬものだということになります。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もっと卒直にいえば、諸君は諸君の詩に関する知識の日に日に進むとともに、その知識の上にある偶像をこしらえ上げて、現在の日本を了解することを閑却かんきゃくしつつあるようなことはないか。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
筑前と自身とを、対等にられることさえ、不愉快この上もないのである。いわんやその者のたまたまあげた一殊勲いちしゅくんによって、数十年来の織田家における元老的地位を閑却かんきゃくされて堪るかと思う。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、米友をとりまいていた連中も、米友を振捨てて走り出したから、全然閑却かんきゃくされてしまった米友。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたくしを驚かせたハンケチ付きの古い麦藁帽子むぎわらぼうしが自然と閑却かんきゃくされるようになった。私は黒いすすけた棚の上にっているその帽子をながめるたびに、父に対して気の毒な思いをした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目的物を発見した嬉しまぎれに、或は閑却かんきゃくされたのではなかろうか。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
全く史家にも閑却かんきゃくされているからである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軒先を通る人は、帽も衣装いしょうもはっきり物色する事ができた。けれども広い寒さを照らすには余りに弱過ぎた。夜はごとの瓦斯ガスと電灯を閑却かんきゃくして、依然として暗く大きく見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火鉢の灰なんてことは、誰しも閑却かんきゃくし易いものだ。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)