金箱かねばこ)” の例文
「まこともまこと、あれはやつがれ方の金箱かねばこでござりますゆえ、うちのもの共も八方手分けを致しまして、大騒ぎの最中でござります」
頭領かしら、そう落胆がっかりするにもあたりませんぜ。こんな時にゃいつでも用の弁じる金箱かねばこを頭領は持っているはずじゃありませんか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又「僕も金箱かねばこと思ってるよ、じたばたすれば巡査が聞付けて来るようにわざと大きな声をするぞ、事が破れりゃア同罪だ」
片手には金箱かねばこのようなものを抱え、覆面して脇差を一本差し、怪しいと兵馬が思う間に、その男は金箱を濠の端に置いて櫓の方へ、また取って返しました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
知合ひを辿たどつて、手傳ひに雇入れただけで、金箱かねばこの鍵まで預けるやうな白鼠ではないやうです。
それでも娘がいい旦那をつかまえているので、まあ楽隠居のような訳だったのですが、その金箱かねばこが不意にこんなことになってしまっては、おとっさんもさぞ力を落しているでしょうよ。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたしは、おまえに、たくさんなたからのこしてやりたいとおもったのが、みんな、いまは、金箱かねばこといっしょにうみそこしずんでしまった。もうおまえにやるものがない。ただオルゴール一つだけだ。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かたりければ夫こそ屈竟くつきやうの事なりとて兩人相談さうだんうへ同く十七年十月二十八日の夜あめは車軸を流し四邊あたり眞闇まつくらなれば是ぞ幸ひなりと兩人は黒裝束くろしやうぞくに目ばかり頭巾づきんにて島屋の店へ忍び入金箱かねばこに手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「———『風袋かぜぶくろに、とりばち、銭叺ぜにがます、小判に、金箱かねばこ立烏帽子たてえぼし、………』」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
傍に在る金箱かねばこに手をかけようとしました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
彼等は一旦その近所の太宗寺たいそうじ内へ逃げ込んで、金箱かねばこのなかをあらためると、銀と銭とを併せて二両ほどしか無かつた。思ひのほかに少いとは思つたが、二人はそれを山分けにして別れた。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
父親ちちおやは、取引とりひきがすむと、おもそうにかねいて、ふねなかに、子供こどもをつれてかえってきました。そして、それを金箱かねばこなかに、大事だいじにしてしまいました。そのはこはがんこに、くろてつつくられていました。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あらそひ入り來る故實に松葉屋の大黒柱だいこくばしら金箱かねばこもてはやされ全盛ぜんせいならぶ方なく時めきけるうちはや其年も暮て享保七年四月中旬なかば上方かみがたの客仲の町の桐屋きりやと云ふ茶屋より松葉屋へあがりけるに三人連にて歴々れき/\と見え歌浦うたうら八重咲やへざき幾世いくよとて何も晝三ちうさん名題なだい遊女を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
熱い膏薬を両眼りょうがんに貼り付けられて、俄盲にわかめくらになつた上に、相手はもかくも侍ふたりである。善吉はただおめ/\と身をすくませてゐると、彼等は帳場の金箱かねばこを引つかゝへてばた/\と逃げ出した。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、このとき、父親ちちおや大事だいじにしておいた、てつつくられた金箱かねばこころがって、うみそこふかしずんでしまったのであります。そればかりでなく、ちいさな汽船きせんは、砂浜すなはまうえへ、げられてしまいました。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)