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酒氣
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しゆき
彼は
只其癖の
舌を
鳴らしてごくりと
唾を
嚥むのみであつた。
次の
朝に
成つて
酒氣が
悉く
彼の
身體から
發散し
盡したら
彼は
平生の
卯平であつた。
……
酒氣が
天井を
衝くのではない、
陰に
籠つて
疊の
燒けこげを
轉げ
𢌞る。あつ
燗で
火の
如く
惡醉闌なる
最中。
御米は
小六の
憮然としてゐる
姿を
見て、それを
時々酒氣を
帶びて
歸つて
來る、
何所かに
殺氣を
含んだ、しかも
何が
癪に
障るんだか
譯が
分らないでゐて
甚だ
不平らしい
小六と
比較すると
小六は
茶の
間で
少し
躊躇してゐたが、
兄から
又二聲程續けざまに
大きな
聲を
掛けられたので、
已を
得ず
低い
返事をして、
襖から
顏を
出した。
其顏は
酒氣のまだ
醒めない
赤い
色を
眼の
縁に
帶びてゐた。