贔屓目ひいきめ)” の例文
純一は日本での enアン miniatureミニアチュウル 自然主義運動を回顧して、どんなに贔屓目ひいきめに見ても、さ程難有ありがたくもないように思った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これも翻訳不可能論に関係があるが、贔屓目ひいきめに見ても翻訳は版画である。原作の細い筆づかひ、色彩、気分などは紹介しがたい。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
日本左衛門が揶揄やゆするとおり、かれが戸田流の必死な防ぎも無益か、どう贔屓目ひいきめに見ましても金吾の一命、ここにあやうしと見えました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これにりてその後は鏡に照したる事もなけれど、三年の間には幾多の変遷を経たれば定めて荒れまさりたらんを、贔屓目ひいきめは妙なものにて
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
どう贔屓目ひいきめに見ても人の注意を惹かずに済むとは考えられないのであったが、幸子も口には出さないで、夫が何を考えているのか大凡おおよそ察していた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
斯く豪宕ごうとうなる景観は、金峰山にも見られぬ程である、或は霧の間からのみ眺めた私の贔屓目ひいきめかも知れぬとは思うが。
思い出す儘に (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
どう贔屓目ひいきめに見ようとしても、黒船の雄姿に比ぶる和船は、巨人と侏儒こびととの相違である。いかに軽蔑しようとしても、眼前を圧する輪郭は争われない。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
秋が深いにしても、朝の光の中に鬱陶うっとうしく頬冠ほおかむり、唐桟とうざん端折はしょって、右の拳で弥蔵をきめた恰好は、どう贔屓目ひいきめに見ても、あまり結構な風俗ではありません。
一日一日と立つに連れて贔屓目ひいきめで見て居るお関にも重三の足りないのが目に余って来るので、自分の夫
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
どう贔屓目ひいきめに見ても彼を美男とは云えない。非常な醜男ぶおとこではなかったけれど決して美しくはなかった。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
我々のとはまるで違う楽器と音楽とを持つ日本人が、これ程のことをなし得るという驚く可き事実が、我々をして彼等の演奏を、どうしても贔屓目ひいきめで見るようにして了う。
すべて女の声帯は細いのに呂昇のは男と同じ程度に大きく、咽喉もよく発達してゐるが、扁桃腺へんたうせんが非常にふとつて、どんなに贔屓目ひいきめに見ても健全ぢやうぶな咽喉とは言ひ兼ねたさうだ。
極く贔屓目ひいきめに見ても、三代相恩の旗本八万騎のだらしのないのに反して、三多摩の土豪出身でありながら、幕府の為に死力をつくしたのは偉い、と云ふ評がせい/″\である。
眼尻が少しさがって、口をあんとあいたところは、贔屓目ひいきめにも怜悧な犬ではなかった。然し赤沢君の村は、ほかに犬も居なかったので、皆に可愛がられて居ると云うことであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
同時に自分のばらばらな魂がふらふら不規則に活動する現状を目撃して、自分を他人扱いに観察した贔屓目ひいきめなしの真相から割り出して考えると、人間ほどあてにならないものはない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と言って扇子せんすをパチ/\させているところは、新太郎君の贔屓目ひいきめかも知れないが、こわいガヷナーさんとも見えなかった。母親が気を利かしたのか、手土産はチョコレートだった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
(所謂ネオ・ロマン主義は日本にも幾多の作品を生んだ。が、先生の戯曲「生田川いくたがは」ほど完成したものは少かつたであらう。)しかし先生の短歌や俳句は如何に贔屓目ひいきめに見るとしても
あの強い意志の人の舞台が、こうまで可憐であろうとは、ほんとに見ぬ人には信じられないほどである。それはわたしの贔屓目ひいきめがそう言わせるのではない。彼地の最高の劇評家にも認められた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
真剣な態度でいろいろと骨格態姿たいしを一々仔細に観察するのでありますから、物を公平に観ることが出来るのですが、少しも贔屓目ひいきめを附けず、「種」の方が全く良種であることに得心とくしんが行きました。
薄くて細くて短い眉毛、それと比較して調和のとれた、細くて小さくてショボショボした眼つき、獅子鼻ししばなではないが似たような鼻、もうこれだけでも贔屓目ひいきめに見ても、美男であるとはいわれない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それも贔屓目ひいきめに見れば愛嬌だった。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
河北の袁紹からきた特使とあっては、いかに自国を贔屓目ひいきめに見ても、ひけめを抱かずにはいられなかったからである。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或は時平にも多少その方面の天分があったかも知れず、満更まんざらこれらの婦人たちの贔屓目ひいきめではなかったでもあろうか。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
秋が深いにしても、朝の光の中に鬱陶うつたうしく頬冠り、唐棧たうざんを端折つて、左のこぶし彌造やざうをきめた恰好は、どう贔屓目ひいきめに見ても、あまり結構な風俗ではありません。
仏様のお引立で極楽に往つたところで、そこで好きな書が書けるかうか疑はしいし、それに仏様が書を奉納したからといつて、贔屓目ひいきめに見てくれるかうかも判らなかつた。
仲平なぞもただ一つの黒い瞳をきらつかせて物を言う顔を見れば、立派な男に見える。これは親の贔屓目ひいきめばかりではあるまい。どうぞあれが人物を識った女をよめにもらってやりたい。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
贔屓目ひいきめもありましょうけれど、あなたが一番有望よ。風采といい態度といい」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
高度表は以上の諸山の中から五十座を選んだものであるが、く見える山で掲げてないものもあり、絶頂若しくは其一部しか見えぬ者でも、全体を望み得るが如くに贔屓目ひいきめに画いたものもある。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ヨセフはどう贔屓目ひいきめに見ても、畢竟ひつきやう余計ものの第一人だつた。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
残るはこんがら一人と三人、どう贔屓目ひいきめに見ても、早く、新九郎が玄蕃を片づけて、助勢に加わらぬ限りはこの勝負、到底こんがらに勝ち目はない。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よろいを投げほこをすてて、僻地へ敗走してしまうなど、どう贔屓目ひいきめに見てもあまり立派な図とは思われぬが
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家中の者の筆記なので、幾ぶん贔屓目ひいきめがあるとしても、その片鱗へんりんうかがうことができよう。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに年は若いし、世の儒生と同じように柔弱で、どう贔屓目ひいきめに見ても、取り立ててこれという程な秀才とも思われぬから、おそらくはもちいてみても、部下の諸将が彼に服すまい。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)