誠心まごころ)” の例文
「あの通りじゃ、すっかり癒った。……いや誠心まごころで祈りさえしたら、一本の稲から無数の穂が出て、花を咲かせて実りさえするよ」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誠心まごころをもって、大学様のお取立を、哀願申しあげるのでござる。公儀も、さすれば臣子の心根を、或はおみとり下されようも知れぬ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやしくも、一教を開く者にはこの誠心まごころがなければならない。与八のは、必ずしもその形だけを学んだものとは思われません。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仏前の誦経ずきょうなどは源氏からもさせた。中将は最も愛された祖母の宮の法事であったから、経巻や仏像その他の供養のことにも誠心まごころをこめた奉仕ぶりを見せた。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
わたくし誠心まごころもっ彼等かれらしゅくします、彼等かれらためよろこびます! すすめ! 同胞どうぼう! かみ君等きみらたすけたまわん!
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この玉藻ならばむかしの小町に勝るとも劣るまい。彼女の誠心まごころが天に通じて、果たして雨を呼ぶことができれば世の幸いで、万人の苦を救うことも出来るのである。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「アクーリナ」は「ヴィクトル」の顔をジッと視詰めた……その愁然しゅうぜんとした眼つきのうちになさけを含め、やさしい誠心まごころを込め、吾仏とあおぎ敬う気ざしを現わしていた。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
余の全心全力をなげうち余のいのちを捨てても彼を救わんとする誠心まごころをも省みず、無慙むざんにも無慈悲にも余の生命いのちより貴きものを余の手よりモギ取り去りし時始めて予察よさつするを得たり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
三年越し乾物屋のお柳に焦がれた又六は、どう誠心まごころを傾け尽しても、弾かれ、はずかしめられ通しなのに気を腐らし、いっそお柳を殺して、自分も死のうと思い定めたのが昨夜でした。
誠心まごころめたる強き声音こわねも、いかでか叔母の耳にるべき。ひたすらこうべ打掉うちふりて
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廿六の彼は、初めて彼女の志を入れ、終世を共にするちかいを結んだのだが、成恋の二人の間には、いたましい失恋の人があって、その人の誠心まごころが綾之助の幸福のために仲人となってくれたのだった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この一条は保さんもこれを語ることを躊躇ちゅうちょし、わたくしもこれを書くことを躊躇した。しかし抽斎の誠心まごころをも、五百の勇気をも、かくまであきらかに見ることの出来る事実を湮滅いんめつせしむるには忍びない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
子を愛する様な愛と詫び入る人の誠心まごころとを籠めて居る。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
戯作者としては彼の体が余りに偉大であったので、冗談ではなく誠心まごころから相撲になれと進める者があったが彼は笑って取り合わなかった。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
正直な米友の心では、神様を拝むのに誠心まごころを論ずるのはよいが、距離を論ずるのは、ドコまでも不当理窟のように思われてならないのです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五千弗という金に眼がれた訳でもないんですが、その老人の様子がいかにも殊勝しゅしょうで、心の底から小鉄の死を悲しむようにも見えた。その誠心まごころに感動したとでもいうのでしょうか。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかれども余の誠心まごころつらぬかざるより、余の満腔のねがいとして溢出あふれいだせし祈祷の聴かれざるより(人間の眼より評すれば)余は懐疑の悪鬼に襲われ、信仰の立つべき土台を失い、これを地に求めて得ず
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
綾麿がんのために、三日にあげず出て行くか、その行先も用事も、ことごとく知り尽しているのに、自分の魅力や誠心まごころでは、それを引き止めて、全身全霊を此方こっちへ投げかけさせることの出来ない悲しさは
そのお方の根気と誠心まごころと、敬虔な心持に感心して、そのお方のお話を承わろうと、そう思った方がいいようだよ
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誠心まごころのこもった主人の態度や愛嬌あいきょう溢れる娘の歓待もてなしは、彼の心を楽しいものにした。殊にお露が機会おりあるごとに彼へ示す恋の眼使いは、彼の心を陶然とうぜんとさせた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一人には誠心まごころを捧げてと、息絶え絶えながら、彼女は、紙帳の方へ這って行くのであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(宮方へご加担した人々のうち、誰が最後まで宮方として、忠義の誠心まごころを尽くすやら?)
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「……この日頃まめまめしく、よう呉服かしずいてくれた。……その誠心まごころ忘れはせぬ。……別れじゃ! ……が、命さえあれば……えにしさえあればまた逢えよう。泣くな! ……呉服、すこやかにくらせ……」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そちの誠心まごころうれしく思うぞ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誠心まごころなのでございますよ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)