衣装いしょう)” の例文
旧字:衣裝
おかみさんはきん衣装いしょうにつけて、まえよりもずっと高い玉座ぎょくざにすわり、大きな金のかんむりを三つもかぶっていました。
きちちゃんが、去年きょねん芝居しばいんだときだまってとどけておくんなすったお七の衣装いしょう、あたしにろとのなぞでござんしょう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
髪の色、眼の色、さては眉根鼻付まゆねはなつきから衣装いしょうの末に至るまで両人ふたり共ほとんど同じように見えるのは兄弟だからであろう。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その船室に備えつけたたった一つの道具は、衣装いしょう戸だなであった。けれどなんという戸だなだろう。寝台ねだいとふとんとまくらと毛布もうふとがその下から出て来た。
しかし、息子むすこをなくした隣人りんじんを何と言って慰めてよいか、知らない。彼は、アダッド・ニラリ王のきさき、サンムラマットがどんな衣装いしょうを好んだかも知っている。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
七蔵しちぞう衣装いしょう立派に着飾りて顔付高慢くさく、無沙汰ぶさたわびるにはあらで誇りに今の身となりし本末を語り、女房にょうぼうに都見物いたさせかた/″\御近付おちかづきつれて参ったと鷹風おおふうなる言葉の尾につきて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
馬子まごにも衣装いしょう髪かたちッてね——それゃアあたしだってピラシャラすれば、これでちったあ見なおすでしょうよ。けど、お金ですよ。それにゃア……お、か、ね! わかりましたか」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「とにかく、参ってみよう。こひ、衣装いしょうを出せ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不思議な事には衣装いしょうも髪も馬も桜もはっきりと目に映じたが、花嫁の顔だけは、どうしても思いつけなかった。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぎっしり、抽斗ひきだしぱいつまった衣装いしょうを、一まいのこらずたたみうえへぶちまけたそのなかを、松江しょうこう夢中むちゅうッかきまわしていたが、やがてえながらしん七にめいじた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ゼルビノという役者が一まい足りないばかりではない、芝居しばいをするには衣装いしょうも道具もなかった。
今余が面前に娉婷ひょうていと現われたる姿には、一塵もこの俗埃ぞくあいの眼にさえぎるものを帯びておらぬ。常の人のまとえる衣装いしょうを脱ぎ捨てたるさまと云えばすでに人界にんがい堕在だざいする。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうだ、お七の衣装いしょう浜村屋はまむらやが、ちゃァんと一人ひとりいたはずだ。おめえはそのたじゃねえか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もし演壇のすぐ前に美くしい衣装いしょうを着けた美くしい婦人でもおられたら、その周囲六尺ばかりは大いに明暸になるかも知れませんが、惜しい事においでにならんから
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
立派な衣装いしょう馬士まごに着せると馬士はすぐ拘泥してしまう。華族や大名はこの点において解脱の方を得ている。華族や大名に馬士の腹掛はらがけをかけさすと、すぐ拘泥してしまう。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
軒先を通る人は、帽も衣装いしょうもはっきり物色する事ができた。けれども広い寒さを照らすには余りに弱過ぎた。夜はごとの瓦斯ガスと電灯を閑却かんきゃくして、依然として暗く大きく見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二十世紀のアダムである。そもそも衣装いしょうの歴史をひもとけば——長い事だからこれはトイフェルスドレック君に譲って、繙くだけはやめてやるが、——人間は全く服装で持ってるのだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寒月と、根津、上野、いけはた、神田へんを散歩。池の端の待合の前で芸者が裾模様の春着はるぎをきて羽根をついていた。衣装いしょうは美しいが顔はすこぶるまずい。何となくうちの猫に似ていた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええ衣装いしょう書割かきわりがないくらいなものですな」「失礼ながらうまく行きますか」「まあ第一回としては成功した方だと思います」「それでこの前やったとおっしゃる心中物というと」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)