萱葺かやぶき)” の例文
干葉ひばの縄が切れて干葉が散らばってる。蓆切むしろきれが飛び散っている。そんな光景の中に、萱葺かやぶき屋根には、ところどころに何か立枯れの草が立ってる。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
やがて車夫が梶棒かじぼうおろした。暗い幌の中を出ると、高い石段の上に萱葺かやぶきの山門が見えた。Oは石段をのぼる前に、門前の稲田いなだふちに立って小便をした。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人々は、建物が木造で、薄いこけら板か萱葺かやぶきかの最も燃えやすい屋根があるので、火事に就ては非常に注意する。
瓦葺かわらぶきが普及すれば瓦の間に、萱葺かやぶきが厚くなればこれに穴をあけて住み、人がいなかった昔はどうしていたろうかを、もう考えて見ることも出来ぬようになっている。
畷道なわてみち少しばかり、菜種のあぜを入った処に、志すいおりが見えました。わびしい一軒家の平屋ですが、かどのかかりに何となく、むかしのさましのばせます、萱葺かやぶきの屋根ではありません。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上湯島には萱葺かやぶきの屋根多きにここは板屋に石を載せて置く。家は小さいが木は多いから、さすがに柱は太い。村というても平地は殆どないが、ややゆるやかな傾斜地に麦が作ってある。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
長者の一行はようやく伊勢に着いて、外宮げぐう参詣さんけいしました。白木しらき宮柱みやはしら萱葺かやぶきの屋根をした素朴なやしろでありました。一の華表とりいくぐったところで、驕慢きょうまんな長者は大きな声をだしました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
にび色にどつしりと或る落着きをもつて光つて居るささやかな萱葺かやぶきの屋根があつた。
蔵造りの軒並のきなみ萱葺かやぶきの屋根がそろえば、工藝の品もまた揃う。建物が吾々の足を留める所は、やがて品物にもえる個所である。旧家は物の歴史やりかを知るに何よりの手引きである。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
坂を下り尽すとまた坂があって、小高い行手に杉の木立こだち蒼黒あおぐろく見えた。丁度その坂と坂の間の、谷になった窪地くぼちの左側に、また一軒の萱葺かやぶきがあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ敷石の道が白く長く帯をのばした様に奥深く通じて居るのが見えるばかりである、予等二人が十五六けんも進んで這入はいってゆくとようやく前面にぼんやり萱葺かやぶきの門が見えだした。
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
畷道なはてみちすこしばかり、菜種なたねあぜはひつたところに、こゝろざいほりえました。わびしい一軒家いつけんや平屋ひらやですが、かどのかゝりになんとなく、むかしのさましのばせます、萱葺かやぶき屋根やねではありません。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ついこの間まではまばらな杉垣の奥に、御家人ごけにんでも住み古したと思われる、物寂ものさびた家も一つ地所のうちにまじっていたが、崖の上の坂井さかいという人がここを買ってから、たちまち萱葺かやぶきを壊して
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つい此間このあひだまでまばらな杉垣すぎがきおくに、御家人ごけにんでもふるしたとおもはれる、物寂ものさびいへひと地所ぢしよのうちにまじつてゐたが、がけうへ坂井さかゐといふひと此所こゝつてから、たちま萱葺かやぶきこはして、杉垣すぎがきいて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)