ゆだ)” の例文
実際ね、先生にとっ捕まっちゃ百年目。この世に有りとあらゆる悪事の総ざらいをされるんだから、たいがいゆだってしまうのです。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私とそでを合わせて立った、たちばな八郎が、ついその番傘の下になる……しじみ剥身むきみゆだったのを笊に盛ってつくばっている親仁おやじに言った。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汗は止めなく流れて、皆ゆだったような顔をしている。喉は渇くが水がない。矢川の部落まで行くと漸く谷川が流れていた。
「まア、取つて置くがいゝ。大名ほどのぜいは出來めえが、それだけありや、町内の人參湯で一日ゆだつてゐられるだらう」
私の肉体は盛り出した暑さにゆだるにつれ、心はひたすら、あのうねる樹幹の鬱蒼うっそうの下に粗い歯朶しだの清涼な葉が針立っている幻影に浸り入っていた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ああびっくりした」若さまはゆだって赤くなった体から、不動明王のように湯煙を立てながら出て来た。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おれは小さい時には顏に青筋が出てゝ、ひどい疳性で皆んなを手古摺てこずらせたさうだよ。炒粉いりこが思ふやうにゆだらないと云つて泣き入つたまゝ氣絶して、一時は助らないと思はれたさうだ。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
しなは二三けんそつちこつちとあるいててからとなりもんくゞつたのであつた。傭人やとひにん大釜おほがましたにぽつぽといてあたつてる。風呂ふろからても彼等かれらゆだつたやうなあかもゝしてそばつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
風呂に漬かるとどんなに皮膚の綺麗きれいな女でも、一時は肌がゆだり過ぎて、指の先などが赤くふやけるものですが、やがて体が適当な温度に冷やされると、始めてろうが固まったように透きとおって来る。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
暑さにゆだって昼寝でもしているのか、甲板に散歩の人影も多くない。
はなしの話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もうゆだった時分でござろう。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「まア、取っておくがいい。大名ほどのぜいは出来めえが、それだけありゃ、町内の人参湯にんじんゆで一日ゆだっていられるだろう」
彼は次に、焜炉にかけた陶器鍋のふたに手をかけ、やあっと掛声してその蓋を高くもたげた。大根のゆだったにおいが、汁の煮出しの匂いと共に湯気を上げた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大釜おおがまに湯気を濛々もうもうと、狭いちまたみなぎらせて、たくましいおのこ向顱巻むこうはちまきふみはだかり、青竹の割箸わりばしの逞しいやつを使って、押立おったちながら、二尺に余る大蟹おおがに真赤まっかゆだる処をほかほかと引上げ引上げ
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「秀、よく解つたよ。手前てめえがこれをキツカケに眞人間に返れば、俺は何にも知らないことにしてやらう。千兩箱は多分、湯釜の中でゆだつて居る筈だ、急いで行きな」
「秀、よく解ったよ。手前がこれをキッカケに真人間に返れば、俺は何にも知らないことにしてやろう。千両箱は多分、湯釜の中でゆだっているはずだ、急いで行きな」