かりそ)” の例文
第十八条 礼儀作法は、敬愛の意を表する人間交際上の要具なれば、かりそめにも之をゆるがせにす可らず。ただその過不及かふきゅうなきを要するのみ。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
「お父さんお母さんがついていますのよ。かりそめにもお前が引けを取るようなことなら、お父さんお母さんが先にお断り致しますわ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とその歓びにおののき、同時にかりそめにも内蔵助の心を疑ってみたり、この人間の世を邪視じゃししていた自分が、打ちのめされたように恥かしくて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我に心を動かしていると思ッたがあれがそもそも誤まりのいとぐちかりそめにも人を愛するというからには、必ずず互いに天性気質を知りあわねばならぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
蟠「黙れ、かりそめにも一刀流の表札を掛けたる大伴蟠龍軒、町人風情ふぜいの金を欺いて取ったと云うは無礼な奴、不埓至極」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かりそめにも自然科学が科学的世界観の基石の欠くべからざる一つとなる限りの権威だけから云っても、それは自然科学自身の損失として報いられて来る。
現代哲学講話 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
自動車のかりそめの合乗あひのりに青年と信一郎とは、恐ろしい生死の活劇に好運悪運の両極に立つたわけだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
けつけてみると、本庁は上を下への大騒ぎだった。られる人に事欠ことかいて、総監閣下がかりそめの機会から非業ひごうの死をげたというのだから、これは大変なことである。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かりそめにも人の妻でいたものをつかまえて、「彼奴も、一つ俺が口説いたら何うだろう。」とは何だ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それでなければかように恐れ入ると云わんよりむしろ悄然しょうぜんとして、みずかふすまに押し付けられているくらいな薩摩絣が、いかに老朽だと云って、かりそめにも先生と名のつく主人を軽蔑けいべつしようがない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さうして、連作としては、姑らく肉体にこもる霊魂だから、天地と一体だと言ふやうにも感じ、さうあるべき魂が、かりそめに肉体に拘束せられてゐるのだといふ風にも、とれるやうになつて居る。
橘曙覧評伝 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「万一のことがあると先方へ不吉けちがつく。口をきいたことがないけれど、心の底から愛している人だ。僕の不幸の暗影をかりそめにも投げかけたくない」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
第四条 身体を大切にし健康を保つは、人間生々せいせいの道に欠く可らざるの要務なり。常に心身を快活にして、かりそめにも健康を害するの不養生を戒むし。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
何でもすがって居なければならねえのに、かりそめにも帰りたいなどと云っては成りません、何だって其様なことを云う
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これへ坐るまでも、決してかりそめ事や戯れ交じりでないことは勿論だが、その真面目まじめをいっそう真面目に
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自動車のかりそめの合乗あいのりに青年と信一郎とは、恐ろしい生死の活劇に好運悪運の両極に立ったわけだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かりそめにも親の仇討あだうちに出立する者が、他人の助力を受けたとあっては、後日世間の物笑いになるからな
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そんなことかりそめにも仰有るものじゃございませんよ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
死んだお父様とっさまの遺言に、われとおえいとは従弟同志だから夫婦にしてやるが、かりそめにも喧嘩して夫婦別れをするような事があると、草葉のかげから勘当だぞと云いやんしたから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
角「馬鹿なことを云うもんじゃアねえ、年イいかねえって、母様かゝさまに小言云われるのがつれえもんだから、焼け死ねばいなんぞと、かりそめにもそんなことを云っちゃア済みやしねえよ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ことに孝心深きにで、不便ふびんなものと心得、いつか敵と名告なのって汝に討たれたいと、さま/″\に心痛いたしたなれど、かりそめにも一旦主人とした者に刃向はむかえば主殺しゅうごろしの罪はのがれ難し
これかりそめにも天下御直参ごじきさんの娘が、男を引入れるという事がパッと世間に流布るふ致せば、飯島は家事不取締かじふとりしまりだと云われ家名かめいけがし、第一御先祖へ対して相済まん、不孝不義の不届ふとゞきものめが
お客を取ったって此方で何んとも云えない訳だから仕方はないが、かりそめにも書いた物を私に渡して置きながら、それを反故にして……反故にされても何んともいうことは出来ないから
角「黙れ、早くかぬか、何時までも兎や斯う無礼のことを申すか、かりそめにも殿様のお側近くを勤むる身の上で、炭屋の下男に知己ちかづきは持たん、ぐず/\してると障子越に槍玉に揚げるぞ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やい太い奴だ、これかりそめにも旅籠はたごを取れば客だぞ、其の客へ対して恋慕を仕掛けるのみならず、刄物などを以て脅して情慾をげんとは不埓至極の奴だ、これ宿屋の亭主は居らんか、灯火あかり
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蟠「これ/\、騙りとはなんだ、かりそめにも一刀流の表札を出す蟠龍軒だ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かりそめにも旗下はたもとの次男三男の指南をする大伴蟠龍軒をなんと心得る、帰れ/\
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かりそめにも男女なんにょ七才にして席を同じゅうせずで、一つ寝床へ女と一緒に寝て、ひとに悪い評でも立てられると、修行の身の上なれば甚だ困ると断ると、左様ならば御足おみあしでもさすらして下さいましと云った
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)