自堕落じだらく)” の例文
旧字:自墮落
若い体をもちながら、三日すればやめられねえということわざどおり自堕落じだらくにまかせて、世の中に怖いもの知らずで歩いていたものだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まめであった昔のわかい時分の気分に返ることが出来てきたので、これまでのような自堕落じだらくな日を送ろうとは思っていなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お蓮は自堕落じだらくな立て膝をしたなり、いつもただぼんやりと、せわしなそうな牧野の帰り仕度へ、ものうい流し眼を送っていた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは平松屋源左衛門の弟で、自堕落じだらくと、不道徳と、汚辱おじょくの中に育った美少年であることは八五郎も知っておりました。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ヘラヘラ笑いながら自堕落じだらくに身体を投げだし、ゴロリと板敷のうえに寝ころがると、いつものように肘枕をつき
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
八橋の男に宝生栄之丞ほうしょうえいのじょうという能役者のうやくしゃあがりの浪人者があった。両親ふたおやに死に別れてから自堕落じだらくに身を持ち崩して、家の芸では世間に立っていられないようになった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
而已のみならず、乙姫様が囲われたか、玄人くろうとでなし、堅気かたぎでなし、粋で自堕落じだらくの風のない、品がいいのに、なまめかしく、澄ましたようで優容おとなしやか、おきゃんに見えて懐かしい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なるほどお前さんの眼から見れば、水戸様石置き場の空屋敷などへ、お兄様や妾が出かけて行くのは、物騒にも見えれば危険にも見え、また自堕落じだらくにも見えるかもしれない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一体に自堕落じだらくに育っている今日こんにちの日本人が、果して家屋を西洋風にやってゆけるかどうか怪しいものである。たとえば他人ひとうちに来て便所を借りる習慣が改められるかどうか。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ああしてみんな自堕落じだらくになっちまう……ついこの間も、若いお女中が入って来なすったが、いじらしいことだ、あんなしおらしい女の子もやがて滅茶滅茶にれからしちまうだんべえ
「身に覚なきはおのづから楽寝つかまつり衣裳付自堕落じだらくになりぬ。又おのれが身に心遣ひあるがゆへ夜もすがら心やすからず。すこしも寝ざればすぐれて一人帷子に皺のよらざるを吟味の種に仕り候」
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
從ツてめしふ、寢る、起きる、べて生活が自堕落じだらくとなツて、朝寢通すやうなこともある、くして彼は立派ななまけ者となツて、其の居室きよしつまでもやりツぱなしに亂雜らんざつにして置くやうになツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
態度口振りからいうことまで、ガラリと自堕落じだらくにかわったお艶であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自堕落じだらくな、あれさ、おつこつたらどうするの
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
淡紅うすあかい顔をしたその西洋人が帰って来ると、お島さんもどこからか現われて来て、自堕落じだらくだるい風をしながら、コーヒを運びなどしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家へ帰りたくないというのも、自分に、目的があるからには違いないが、あのまま自堕落じだらくになって行ったら、女の一生を末はどうするつもりなのだろう
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こいつはもと品川で勤めをしていた三十女で、以前は武家の出だというが、自堕落じだらくの身を持崩もちくずして、女のみさおなんてものを、しゃもじのあかほどにも思っちゃいない。
障子閉めつつ、自堕落じだらく
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
華美かび自堕落じだらくに馴れている新領土の民には、きょうまで、信長としては極めてなまぬるい政策をとって、徐々にらして行こうという方針でいたのである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お六というのは、れっ枯らしと純情と、侠気おとこぎ自堕落じだらくを兼ね備えたような、この社会によくある型の女、不きりょうではあるが、八五郎が強調したほどみにくくはありません。
そしてこの元禄の世のような、えた自堕落じだらくな世相もひきまるし、だれた人心に、又新しい人間の精神が、強く、打ち建てられて来るのじゃないか。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はその自堕落じだらくな顔をジッと見ておりましたが、なんにも言わずに引揚げてしまいます。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
自堕落じだらくな主人のすがたを悲しむかのように、二つの白い顔は、冷たい眉をそろえて沈黙をまもっていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにしても、万両分限の娘というにしては、少し自堕落じだらくなまめきます。
いやさ、いつこの兄や千浪殿が、そちにかたきを討ってくれと頼んだか! 拙者はな、足こそ不自由な身なれどもまだ自堕落じだらくな汝らにだい仇討をしてもろうて、喜ぶような者ではないぞ……
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし領主から買いに来ない場合は、戦後の死骸をぐか、落人を裸体はだかにするか、拾い首を届けて出るか、いくらでもやることがあって、一戦ひといくさあれば半年や一年は、自堕落じだらくにて食えるのであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は自分の一面には多分にそういう自堕落じだらくのあることも省みていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)