肥沃ひよく)” の例文
江南江東八十一州は、今や、時代の人、孫策そんさくの治めるところとなった。兵は強く、地味は肥沃ひよく、文化は溌剌はつらつと清新を呈してきて
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の本拠はハドソン河の岸のオランダの百姓がたいへん好んで住むような緑濃い、奥まった、地味の肥沃ひよくなところにあった。
あゝ未知のとみ肥沃ひよく財寶たからよ、エジディオ沓をぎ、シルヴェストロ沓をぬぎて共に新郎はなむこに從へり、新婦はなよめいたく心にかなひたるによる 八二—八四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
彼は黒川郡吉岡、六千石の館主たてぬしで、そこは仙台領のうちもっとも肥沃ひよくの地であり、したがって勝手向きも豊かであった。
あるいは肥沃ひよくなボースの農民のように、あるいは淑女にとり巻かれるヴェニスの貴人のように、あるいはまた、兵士の半ばをドイツ連邦に貸し与えて
北に高い山がそびえ、南に肥沃ひよくな平野がひかえ、一年中暖かく日が当って、五穀ごこくがよく実り、どの家も富み栄えて、人々は平和に楽しく暮らしていました。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
もう一度このへんの雪線が少しばかり低下して崑崙こんろんの氷河が発達すると、このへんの砂漠さばくがいつか肥沃ひよくの地に変わってやがて世界文化の集合地になるかもしれない。
ロプ・ノールその他 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ところがそのへん、ふもとの緩い傾斜のところには青い立派な闊葉くゎつえふ樹が一杯生えてゐるでせう。あすこは古い沖積扇です。運ばれて来たのです。割合肥沃ひよくな土壌を作ってゐます。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
周囲は米の産地として有名な地味肥沃ひよくの庄内平野に包まれているので主産物は米であった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
一つの風景を、もやのふかい空のもとにある、しめった、肥沃ひよくな、広漠こうばくとした熱帯の沼沢地を、島と泥地でいちどろをうかべた水流とから成っている、一種の原始のままの荒蕪こうぶ地を見た。
生育の地は、暑くて湿潤な気候で、土壌は深く、肥沃ひよくで排水良好でなくてはならない。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
我々の未墾地はこの方面においては、広大にしてまた異常に肥沃ひよくである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
他の熟練家らよりも彼女のまさってる点は、その肉体上および精神上の頑健がんけんな平衡であった。私的熱情のない彼女の生の豊満のうちに、他人の熱情は花を咲かすべき肥沃ひよくな土地を見出していた。
忠告を納むるべき肥沃ひよくな畑
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
四つのたいら肥沃ひよくの地
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
魏はもともと、天富の地にめぐまれ、肥沃ひよくにして人馬強く、曹操以来、ここに三代、ようやく大国家のていをととのえて来ました。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところがそのへん、ふもとゆる傾斜けいしゃのところには青い立派りっぱ闊葉樹かつようじゅ一杯いっぱいえているでしょう。あすこは古い沖積扇ちゅうせきせんです。はこばれてきたのです。割合わりあい肥沃ひよく土壌どじょうを作っています。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いかなる海鳥糞かいちょうふんも、その肥沃ひよくさにおいては都市の残滓ざんさいに比すべくもない。大都市は排泄物はいせつぶつを作るに最も偉大なものである。都市を用いて平野をこやすならば、確かに成功をもたらすだろう。
武蔵は先刻さっきから、白々と、明けてくる曠野を見ていた。そして、この肥沃ひよくな野に住む人間が、どうして、かくの如く貧しいかを考えこんでいた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肥沃ひよくな海道の麦は青々とのびてきた。花がちって、新樹の若葉のにおいがって来た初夏である。義元は、上洛軍の出動を、府中から発令した。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水や土を相手に、ここへ肥沃ひよくな人煙をあげようとする治水開墾の事業も、人間をあいてに、人文のはなを咲かせようとする政治経綸けいりんも、なんの変りもないことと考える。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漢中は土壌肥沃ひよくにして生産物多く、民はまた盛んにして、まことに国の藩屏はんぺいと申すべきところ。万一敗れて、これが敵の手中におちては魏のうち震動するに違いありません。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろん、済北済南の地は肥沃ひよくであるから、それを養う糧草や財貨もあり余るほどだった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武陵ぶりょうには太守金旋きんせんがあり、長沙ちょうさには韓玄かんげん、桂陽には趙範ちょうはん零陵れいりょうには劉度りゅうどなどが、おのおの地盤を占めております。この地方は総じて、魚米の運輸よろしく、地も中原に似て、肥沃ひよくです。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
べて、いささか寸功を挙げたが、御身におかれても、一躍、遠州の肥沃ひよくを御領土に加えられて、歓びこの上もない。併せて、織徳しょくとく両家の同盟のうえにも、一層、強固を加えたものと存ぜられる
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)