結句けっく)” の例文
さりながら嬢と中川は向う側にあり、客の三人此方こなたに並んでせり。結句けっくこの方が嬢の顔を見られて都合好しと大原はあながちにくやまず。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「こうなってみりゃ、結句けっくおれも気楽にお仲間入りができるというもの。どれ、焼け出されの秦野屋から、お先に御免こうむろうか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やって居るより、あの方が性に合って、いくら好いか知れやしない。今じゃ大分身入りもあるようだし、結句けっく奴さんは仕合わせさ。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
次に「梅かをる朝」といふ結句けっくは一句としての言ひ現はし方も面白からず、全体の調子の上よりこの句への続き工合も面白からず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
自分はこの道を覚込おぼえこんで女師匠に一生一人生活くらしをして行く方が、結句けっく気安いだろうと思ったので、遂に自分の門弟となったが
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「ナニ、永いことがあるものか、手鍋さげても奥山ずまいという本文通りよ、結句けっく、山ん中が面白おもしろ可笑おかしくていいじゃねえか」
漸く話のわかって来た友達を失うと云う事は嬉しい事ではないので結句けっくその方がながし元まで響き渡ってよかったのである。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「私のためには結句けっく幸い。何んとそうではございませぬかな」彼はそろそろと手を延ばして山吹の方へ近寄って行く。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
子供のない奥さんは、そういう世話を焼くのがかえって退屈凌たいくつしのぎになって、結句けっく身体からだの薬だぐらいの事をいっていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一種風変りな性質の彼は、その孤独を結句けっく喜んで、後妻を迎えようともせず、数人の召使と共に、広い洋風邸宅に、滅入めいった様な陰気な日々を送っていた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雪之丞が、間遠まどおに見て、歯を噛んでいるうちに、又もや、斬り抜けた闇太郎、結句けっく、またも、多勢にかこまれて、身じろぎに、不自由を覚えて来た容子ようす——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「そうでもないわ。初めッから承知で来たんだもの。芸者は掛りまけがして、借金の抜ける時がないもの。それに……身を落すならかせぎいい方が結句けっく徳だもの。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
戸外おもてへは近うござんすが、夏は広い方が結句けっくうございましょう、わたしどもは納戸なんどせりますから、貴僧あなたはここへお広くおくつろぎがようござんす、ちょいと待って。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葉子はしかし結句けっくそれをいい事にして、自分の思いにふけりながら二人に続いた。しばらく歩きなれてみると、運動ができたためか、だんだんは感ぜぬようになった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
唐土もろこしから種々いろ/\薬種やくしゅが渡来いたしてるが、その薬種を医者が病気の模様にってあるいゆるめ、或は煮詰めて呑ませるというのも、畢竟ひっきょう多くの病人を助ける為で、結句けっく御国みくにの為じゃの
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やたらに水を飲んだもので、とうとう翌日に下痢げりで苦しんだよ、それ故まあ、一時はおどかしてやったものの矢張やはり私の方が結句けっく負けたのかも知れないね。
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
あだ討でもあるまいと——まあ二の足を踏むのが多くて、結句けっく、連判の盟約を解こうと極まったわけだ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どう致して、そのままの方が御話がしやすくて結句けっく私の都合になります。ハハハハ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると隠す事程結句けっくは自然と人に知れるもので、うもおかしい様子だが、新吉と師匠と訳がありゃアしないかと云う噂が立つと、堅気のうちでは、其の様な師匠では娘の為にならんと云って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
併し、そこへ気づかなんだのが、結句けっくよかったのかも知れない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『——あいつは倖せ者だよ、まだ疑わないのだ。結句けっく、あのほうが人間は気安いなあ』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ知らぬ人で逢い、知らぬ人でわかれるから結句けっく日本橋に立って、電車の旗を振る志願者も出て来る。太公望が、久一さんの泣きそうな顔に、何らの説明をも求めなかったのはさいわいである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
結句けっく、町人が気らく。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)