科人とがにん)” の例文
男が無事に済んだから好いようなものの、一旦こっちへ引き渡した以上、もし重い科人とがにんになったらもう取り返しは付きませんや。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
牢屋づとめをしておる者が科人とがにんとぐるになって、なんのことじゃ。ぬかせッ、ぬかせッ。ぬかさずば、もっと痛いめに会うぞッ
そして何もかも反対にとって、何もかもあの子のせいとばかり思い込み、一も二もなくあの子を科人とがにんにしてしまったのです。
それでも、首謀者らしい奴だけは取り逃がしませんでしたよ。今、あの科人とがにんを拘留する小屋の中で大声を張りあげて唄をうたつてをりますがね。
そしてやがて、縁から科人とがにんのような卑屈な眼をせて、親鸞の室へ坐り、自分の頭に下るであろう罪の鉄槌てっついを待っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さう言ふな、お小言こごと言ひ乍らも、笹野の旦那は、八五郎にも呑ませろ——と、大した酒手さかてを下すつたぜ、氣のつく方ぢや無いか、磔刑になる科人とがにん
死刑執行人は狼狽して、また庖丁を引きあげて落とした。庖丁は二度科人とがにんの首を切ったが、まだそれを切断しなかった。科人はわめき、群集もわめいた。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
再發さいはつさせ科人とがにんの身と成し事思ひ知れやとひながら奉行ぶぎやうの方に打向ひわれるばかりの大音だいおんあげ是迄したる我が惡事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平人にても科人とがにんにても、悪者わるもの一人差止め、岡引と名付け、手引致させ、其者の罪を免じ、ほか科人とがにんを召捕候。
放免考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
白洲しらすごっこだ。道理で、地面に茣蓙ございて、あれが科人とがにんであろう、ひとりの子供が平伏している。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
明治何年か保安条例の出たとき、私もこの条例の科人とがにんになって東京を逐出おいだされると云う風聞。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
御自分までが面目めんぼくを失われる事になりますばかりでなく、将軍家の御質問も御道理でございますから、しきりに勘考を致されましたが、からにも此の様な科人とがにんを取扱ったためしはございませんが
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旧物に対する蔑視べっしと、新らしき物に対する憧憬とが、前述のようにはげしかったその当時は、役者は勿論のこと、三味線を手にしてさえも、科人とがにんのように人々からおとしめられたものであった。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
ここ籠屋ろうやの奉行をば石出帯刀と申す。しきりに猛火もえきたり、すでに籠屋に近付しかば、帯刀すなはち科人とがにんどもに申さるるは、なんぢら今はやき殺されん事うたがひなし。まことにふびんの事なり。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
…………科人とがにんにしたもわたしから、さぞにくかろう
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
「じゃと、申して、みすみす、この科人とがにんを——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「これで此の一件も落着らくぢゃくしました」と、半七老人はひと息ついた。「こう訳が判ってみると、誰が科人とがにんというのでもありません。 ...
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
途は一つ! 只一つ! 事を荒立てないで、怪我人も出さず、科人とがにんも作らず、未然にすべてを防ぐ手段てだてを講ずる以外には何ものもないのです。
科人とがにんはご神刑しんけいにかけます。ご領地りょうちのできごとなら知らぬこと、ご神縛しんばくの科人は当山とうざんのならいによってばっします」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺さざる由其上に彼の富右衞門其日は宿所しゆくしよに居ず全く人殺ひとごろしは別にあることゝ思ひしゆゑ其時は外の科人とがにんの首を以てさらし既に今年迄三ヶ年のあひだ富右衞門を隱し置たりなんぢ是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親の死目に逢はせる爲には、傳馬町の大牢からさへ科人とがにんを出してやるのがお上のお情けだ
徒刑囚や科人とがにんは彼の雄弁のばねである。彼はそれが自分の仕事だからして、彼らを懺悔させ彼らを補佐する。彼は人を死に連れてゆくことで年老いている。戦慄すべきことに長く馴れている。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
実にこの有様を見れば、女は生まれながら大罪を犯したる科人とがにんに異ならず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その科人とがにんと知りながら、こうまでつくしてくれるであろう? いまの言葉によれば、自分を思っていてくれる——とのことだが、もしそれが父の十手の鋭鋒えいほうにぶらすための、単なる一時の方便ほうべんでなく
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ここで主殺しの科人とがにんを引っくくって連れていけば、八丁堀の旦那にもいいみやげが出来るというものだ。(また呶鳴る。)さあ。こいつ等。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ああ、知ってるよ。長崎のお奉行ぶぎょうから預かり中の科人とがにんだとかいってたっけが、そいつがくたばってでもしまったのかい」
「私だって、なにもこの国へ、島流しにされた科人とがにんではなし、身を売ってきた女でもございませんからね」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺たるには非ず外に在との御話しゆゑとても死たる彦兵衞が事は是非に及ばずせめて外に本人があらば科人とがにんを出し父彦兵衞が惡名あくめいすゝぎ申度其本人を知らせ給れとかれ志操こゝろざし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
八五郎兄哥あにいは錢形の親分の一の子分だ、萬一その兄哥を科人とがにん扱ひにして、後で錢形の親分に文句を言はれちや、十手のよしみがないと世間から言はれるだらう、——念を入れ過ぎるやうで
ドウかしたら福澤も科人とがにんの仲間にしたいと云うようなふうが見えました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それこそ足跡をぎ廻っている重い科人とがにんかも知れません。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこを考えて、もう死んだものは仕方がねえと諦めて、科人とがにんを出さねえようにそっと片付けようとしたんだろうと思います
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「張飛! 何をするかッ」と、大喝して、「かりそめにも、朝命の科人とがにんへ、汝、一野夫の身として、何をなさんとするか。師弟の情は忍び難いが、なお、私情に過ぎない。 ...
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まずそんなところさ。一つ屋根にいた者に死んで出られりゃ、いくら科人とがにんどもだってあんまり縁起のいい話じゃねえんだからな。どやつか牢番に鼻薬をかがして、清め塩を盛らしたんだろうよ」
それを知りながら科人とがにんの種は尽きねえ。どうも困ったものだ。といって、こうなったら打っちゃっても置かれねえ。松吉と手分けをして詮議にかかれ。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おひざもとからとんだ悲しい科人とがにんを出さねばなりませんぞ」
今さら甚吉を科人とがにんにしたところで、死んだ我が子が生き返るわけでもないから、いっそ慾にころんだ方がしだと考えて、甚吉の家から三百両の金を貰って
真鬼偽鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「なんの、珍しゅうもない。そんなことを一いち詮議立てしたら、今夜はそこらに幾人の科人とがにんができようも知れぬ」と、平安朝時代の家人けにんはらのなかで呟いた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
科人とがにんの仕返しが怖くって、仲間の知恵を借りたなぞと云われちゃあ、世間に対して顔向けが出来ねえ。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ここで主殺しの科人とがにんを引っくくっていけば、八丁堀の旦那方にも好い御歳暮が出来るというもんだ。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
科人とがにんをこしらえるほどの事でなくっても、これも叱って勝次郎を助けてやらなけりゃあ可哀そうだ
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お菊はその夜主人又四郎の寝間へ忍び込んで、剃刀で彼が咽喉のどを少しばかり傷つけたと云うのでしゅ殺しの科人とがにんとして厳重の吟味を受けた。お菊は心中であると申し立てた。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その清五郎という奴は大事の科人とがにんだから逃がしちゃあいけねえ。あしたの朝おれが行くまで厳重に番をしていてくれと……。音造も人殺しだが、それを押さえた清五郎も人殺しだ。
「酔った振りしてさんざん失礼なことを申し上げましたが、科人とがにんはお店の和吉ですよ」
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくしがあいつを縛っていくのは造作もありませんが、あすこから引きまわしの科人とがにんが出ることになると、和泉屋の古い暖簾に疵が附いて、自然これからの商売にも障りましょう。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その起こりは安政元年四月二十三日、夜の五ツ(午後八時)少し前の出来事で、日本橋伝馬町てんまちょうの牢内で科人とがにん同士が喧嘩をはじめて、大きい声で呶鳴るやら、殴り合いをするやら大騒ぎ。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「お前も科人とがにんの子と指さされてはこの大坂にも住みづらかろう。おれが添え手紙をして江戸の親方衆に頼んでやるから、ほとぼりのめるまで二年か三年か、江戸へ行って修業して来い」
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから鈴ヶ森か小塚ッ原で高い木の上へ縛り付けられると、突手つきてが両方から槍をしごいて、科人とがにんの眼のさきへ突き付けて、ありゃありゃと声をかける。それを見せ槍というんだ、よく覚えておけ。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それらの事情をうまく云いまわせば、彼は単に叱り置くぐらいのことで、ほんとうの科人とがにんにはならないかも知れない。彼が多寡をくくって平気な顔をしているのも、それが為であろうと半七は思った。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)