祖父おじい)” の例文
女は可愛い自分の祖父おじいさんでも抱くように七十歳の、だぶだぶした麻の詰襟服を着たアレキサンドル・ミハイロヴィッチの肩にさわった。
赤い貨車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
アノ祖父おじいちゃんはね、恐ろしく怒ってるよ、お祖父ちゃんはね、アノんなやくざな者は無い、駄目だって、アノ芸妓げいしゃや何かに、アノ迷って
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その当時の事だから、祖父おじいさんも腰に刀をしていたので、突然いきなりにひらりと引抜ひきぬいて、背後うしろから「待てッ」と声をかけた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ中気ちゅうきで手足のきかぬ祖父おじいさんと雇いばあさんがいるばかり、いつもはにぎやかな家もひっそりして、床の間の金太郎や鐘馗しょうきもさびしげに見えた。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もとよりその女のに取って、実家さと祖父おじいさんは、当時の蘭医(昔取ったきねづかですわ、と軽い口をその時交えて、)
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祖父おじいさんは、百姓だった。その百姓から身を起して、一旗挙げようとした時に、これを刀鍛冶にたせなすった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うちへ帰れば悪口も言われようが、何といってもこんな貧乏しなくてもすむ、そればかりでない、お前の祖父おじいさんも祖母おばあさんもどんなに喜ぶか知れん」
それから其後また山本町に移ったが、其頃のことで幼心にもうすうす覚えがあるのは、中徒士町に居た時に祖父おじいさんが御歿おなくなりになったこと位のものです。
少年時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
義雄兄はまた幼少のころからもらわれて行ってその母方の家を継いだ。義雄兄の養父——節子から言えば彼女の祖父おじいさんは、岸本が母の実の兄にあたっていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わしがこれでも古狸ふるだぬきであることを、お前は知らなかったんだ。どうだね。腹が立つかね。祖父おじいさんを少しばかにしてやろうなどと思っても、そうはいかないさ。
「こんな可愛い孫があるのに、瓢々斎の祖父おじいさんも、ろくに顔も見ずに死んだんだろう、気の毒な」
ここにこういう形見を残していった人の祖父おじいさんにあたる人は、恋愛、決闘、誘拐などと数々の浮名をながした挙句の果に、かれこれ六十五にもなろうという年をして
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
「さあ、だれのだろうな。それは、おさるさんにきいてみるのが、いちばんいい。」と、祖父おじいさんは、おっしゃいました。二人ふたりは、こんどは、ざるのところへまいりました。
祖父おじいさんも何時いつ帰りますことかねえ。」
お前の祖父おじいさんが隣村まで用達ようたしに出かけて、日が暮れてから帰って来た。その晩はい月夜で二三町先までく見える。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「しかし、叔父さん、私の家を御覧なさい——不思議なことには、代々若い時に家を飛出していますよ。第一、祖父おじいさんがそうですし——阿父おやじがそうです——」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ここから一里ほど先の法典ヶ原に住んでいた馬子のせがれでございますが、祖父おじいが以前、侍であったとかで、自分も大きくなるまでに、侍になるのだと口癖に申しております。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供を預けておいて、そして祖父おじいさんが死んでしまう。まあなんて話なんでしょう。ほんとになんてことでしょう。ああ、あなたは生きていなさる! ほんとにありがたいことだ。
「蕨? 蕨は祖父おじいさんが嫌いでな」と、それを手にとって見ようともしなかった。
二人ふたりは、たがいにいいあらそって、祖父おじいさんのところへききにきました。
祖父おじいさんの看病も私一人では覚束おぼつかなし、たしかな後見をといった処で、また後見なんていうものは、あとでよく間違が出来るものだから、それよりか、いっそ私に……というので、親類中で相談をめて
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで、祖父おじいさんはの赤児を拾って帰って、燈火あかりの下でよくると、生れてから十月とつき位にもなろうかと思われる男の児で、色の白い可愛い児であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私はまた、二人ふたりの子供の性質の相違をも考えるようになった。正直で、根気こんきよくて、目をパチクリさせるような癖のあるところまで、なんとなく太郎は義理ある祖父おじいさんに似てきた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
明日あしたはもうここを去るというので、三之助は、こんな茅屋あばらやでも、自分まで三代も住んだ小屋かとながめて、夜もすがら、祖父おじいの思い出や、祖母おばあ亡母ははのことなどを、武蔵へ話して聞かせた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなたの娘さんですか。まあ言わば、あなたはその祖父おじいさんとでも?」
祖父おじいさんは、ただわらって、返事へんじにおこまりになりました。
この人々の阿父おとっさんや祖父おじいさんは、六十年ぜんにここを過ぎて、工事中のお台場を望んで、「まあ、これが出来れば大丈夫だ」と、心強く感じたに相違ない。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あれで祖父おじいさんもなかなか頑張がんばっていて、本陣庄屋の仕事を阿爺おやじに任せていいとは容易に言わなかった。それほど大事を取る必要もあるんだね。おれなぞは、お前、十七のとしから見習いだぜ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
祖父おじいも、祖母おばあも、おっ母さんも、みんなここに眠ってるんだぜ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんなことを言出した。お俊は附添つけたして、丁度ちょうど先生は「吾家うち祖父おじいさん」のような人だと言った。先生と忠寛とは大分違うようだ、と三吉が相手に成ったのが始まりで、お俊は負けずに言い争った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「この刀は、祖父おじいさんが、たせたものだ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祖父おじいさんから先は、どんな人が御先祖だったか知れぬが、その遠い御先祖のうちには、偉い人もいたに違いない。多分、お侍もいたろう。学者もいたろう。——そういう方たちの血が流れ流れて、わしからお前にも、伝わっているわけだ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)