示唆しさ)” の例文
それにしても、木村は何のために「ソウイウ機械」のあることを夫に教えたり、私の裸体を撮影することを示唆しさしたりしたのであろうか。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、具体的対策については、何一つ示唆しさが与えられないまま、それから二十分ばかりの間に、来賓たちの姿もつぎつぎに消えて行った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
繩屋吾助、いわゆる「禿」なる当人も、この事件から非常なる衝撃と示唆しさを受けたことは、これは人情のやむべからざるところであるだろう。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
という記事もあって、いよいよ近く英独は、ドーヴァ海峡かいきょうへだてて対戦するであろうことを示唆しさしているものもあった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もちろん、武蔵は、長恨歌全文を、愛誦もし、白楽天のあの艶麗にして悠遠な構想と宇宙観の示唆しさに富んだ一章一章をふかく玩味がんみもしていたであろう。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの本能から生れ出る苗代川の黒物ほど、知識へ多くの示唆しさを贈るものはない。なぜならそれは知識が有ち得ないものを、一番沢山有っているからである。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もとよりこの手紙集はそれらの解決にこたえるためにあるのではない。しかし生と人間性の根本を神学的に考えとらえんとする志向と感情とを示唆しさしうるであろう。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ですから、そうなって、さしずめ想い起されてくるのが、過去三変死事件の内容でしょう。そのいずれもに動機の不明だった点が、実に異様な示唆しさを起してくるのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私にはそれが復讐ふくしゅうの息吹のごとくにも思われ、また荒々しい捨身しゃしんへの示唆しさのごとくにもみえた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ずっと後に出たルルウの「黄色の部屋」にテーマとして示唆しさを与えた実際の事件があった。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そんな国定教科書風な感傷のなかに、彼は彼の営むべき生活が示唆しさされたような気がした。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
これについてかつて武内義雄氏の非常に示唆しさに富んだ講演を聞いたことがある。記憶が曖昧であるから、責任は自分が負うことにして、自分の考えでその説を祖述してみよう。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼女の追憶について書く事を人から幾度か示唆しさされても今日まで其を書く気がしなかつた。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
これらのいろいろの解釈が可能であると思われるが、著者は本書ではそれを、政治現象の基本的な諸問題に一通りの究明を試み、よりくわしい研究への示唆しさを与えるものと解釈した。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
庸三はそれをねがわないだけに、わざとしばしば擬装的な示唆しさを与えてみたのだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
管弦楽の楽員らが示唆しさを与えたのである。ある楽員らはそのぬすみ笑いを少しも隠さなかった。それ以来聴衆は、笑うべき作品であると確信して大笑いをした。愉快な気分が一般に広がった。
エメリヒの見解は深い示唆しさを含むものである。
ある種のつよい示唆しさと指標を与えた。
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
ある種のつよい示唆しさと指標を与えた。
今夜の行動は、帆村の示唆しさするところに従って、田鍋課長が蹶起けっきしたという形になっていたが、実のところ課長としては何等自信のあることではなかった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その一報一報に、信玄がいずれの陣にあるかを確証して来ないまでも、謙信がそれを判断する示唆しさなり材料には十分な提供となっていたことは疑いもない。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅八のことは、竹亭寒笑を手先に使おうとした滝川内膳の示唆しさによる。そしてかれはほぼその目的とするところを握り当てたようだ。すべてはお家のためだ。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私はその生命の春に目ざめて、人生の探究に出発したる首途にある青年たちにはこの書がまさしく、示唆しさに富める手引きとなり得るであろうことを今も信じている。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
つまり、「頭陀の法を学ばざれば、前よりの心安んぞ忘るべけん」と云う白詩はくし示唆しさに従った訳なので、それは父の死ぬ一年ほど前、滋幹が七つぐらいの時のことであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それ故何人も何物も本来美醜の二を超えた国に迎えられるのである。この誓いがなくしてこの世に何の希望があろうか。それはただに救いの可能なことを示唆しさするだけではない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
太子の生涯を辿たどりつつ、僕は今の世に生きて行く上での勇気を深く示唆しさされた。仏教教義や憲法論と云ったものではない。時代に真向からぶつかって、時代に深く傷つくということだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
まったく猫の耳の持っている一種不可思議な示唆しさ力によるのである。私は、家へ来たある謹厳な客が、膝へあがって来た仔猫の耳を、話をしながら、しきりにつねっていた光景を忘れることができない。
愛撫 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
人間の意志というものが、将来こうした科学手段によって監理かんりされる日が来るであろうことを示唆しさしたもの。
その示唆しさを、下野の顔つきから、読み取ろうとするのかも知れなかった。そういう突嗟とっさの機謀は非常にするどい大将だとは下野もかねて聞いているところである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕はこれといって、何もお嬢さんに示唆しさしたことはありません。僕はお嬢さんのイヤゴー的な性格を知っているので、ああすれば十八日の晩のようなことになるのを期待していただけです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただ六郎兵衛に示唆しさされて、いっときいさみ立っただけのようである。
それはいずれも分別のもろさを知らせようとする親切な教えである。決して分別に意味がないというのではなく、分別に終れば二相を出ないというのである。だから赤子の無心に無量の示唆しさがある。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼——福士大尉の、うしなわれたる記憶は、その一瞬の間に、完全に恢復かいふくしたのだった——ドクター・ヒルが示唆しさしたところと、ぴたりと一致する経過をとって……。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、当然疑われたが、彼の眼を見た政職の眼には、その解答ともいえる困惑こんわくと自己苛責かしゃくの容子が明らかに現われていたことは官兵衛にとって見遁みのがし得ない示唆しさだった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば今、外国密偵団の監視をやっている有名な青年探偵帆村荘六ほむらそうろくが、数日前その筋から示唆しさをうけた話の内容について考えてみるのが早わかりがするであろう。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これは、当然なかれの義務であるのに、秀吉に示唆しさされて、はじめて腰を上げたのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その心持や当時の四囲の事情もうなずけてくるし、ことに関ヶ原以後の彼が、その戦争の結果に依ってどんな示唆しさをうけたか、そしてどうして「剣」を道とする道をえらんで行ったかも
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
示唆しさしたのだ。犯人はその暗号表を持っているのに相違ない
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
茶席の点前などのばあいにも、往々、失念や過失はありがちであるから、検校のあの物腰は、二千余人の各流のお茶のお弟子さんたちにも、何か示唆しさを与えたのではないかとおもう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして彼が、吉致にどんな示唆しさを与え、また、いかなる細目までを計り合ったかはしれないが、夜が明けると、いつのまにか、昨夜の集客はみな、羅刹谷からその姿を消し去っていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南の知識も、当初はもっぱら、そのばてれん達によって伝えられて来たものが多いが、ここに今宵いる島井宗室の如きは、必ずしも、それから示唆しさを得て今の家業をはじめたものではない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武士訓は、大名や権門の人が、子弟や臣下に示すために書いたばかりでなく、武蔵のような一武人でも、名なき人々でも、自己の自誡じかいに、また、社会人への示唆しさとしてさかんに書いたものである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四条のほとりで、安居院あごい法印ほういんからいわれた示唆しさは、今もまだ耳にあって、天来の声ともかたく信じているのであるが、範宴には、いきなり法然の門へ駈けこんで、唐突に上人に会ってみるより
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「説客のことばには、まま思わぬ示唆しさを得るものでおざる。存分、申し分を吐かせ、その上の御賢慮なり、或いはまた御評議に附されても、決して、殿の清節にかかわることはございますまい」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孟獲もうかくがその蛮都たる中部を離れて、孔明の遠征軍をわざわざ貴州・広西省境あたりから迎えて、悪戦劣戦を重ねたのも、要するに彼が示唆しさしてうごかした蜀境地方の太守や諸洞の蛮将たちに対して
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などと暗に危険を示唆しさする声はふだんにも聞くことだった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)