白丁はくちょう)” の例文
お鶴が石壇にかかりますと、もうはるか奥に、鏡が一面、きらきらとあおい月のように光ります前に、白丁はくちょうを着た姿が見えたといいます。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
町へ出る時にも、やっぱり米友は烏帽子えぼしかぶって白丁はくちょうを着ておりました。それから例の杖に油壺をくくりつけて肩にかついでおりました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その夕日の中を、今しがた白丁はくちょうが五六人、騒々しく笑い興じながら、通りすぎたが、影はまだ往来に残っている。……
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
塵埃ほこりたかる時分にゃあ掘出しのある半可通はんかつうが、時代のついてるところが有りがてえなんてえんで買って行くか知れねえ、ハハハ。白丁はくちょう軽くなったナ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「まア、お掃除をしているのかと思ったら、その恰好は何ですか。——白丁はくちょうを着ているくせに、木剣など持って」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「二本の白丁はくちょうに出して置いて、一本無くなると次のを呑み、二本空っぽになると、また樽から出して置きます」
が、今夜、とうとう、辛抱しんぼうがしきれなくなって、もう、白丁はくちょうが三本も、そこらにころんでいる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その横に白丁はくちょうがあって、すこし置いて椿つばきがあって、その横に大きな木犀もくせいがあって、その横にほこらがあって、祠の後ろにゴサン竹という竹があって、その竹はいつもおばアさんのつえになるので
初夢 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
暗いなかでお神輿の金物かなものがからりからりと鳴る音と、それを担いで行く白丁はくちょうの足音がしとしとと聞こえるばかり。お神輿は上の町のお旅所たびしょへ送られて、暗闇のなかで配膳の式があるのだそうで……。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と喚く鎌倉殿の、何やら太い声に、最初、白丁はくちょうに豆烏帽子でからかさを担いだ宮奴みややっこは、島のなる幕の下をって、ヌイとつらを出した。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで武蔵が、わけを話して、一応怪しい者でないことを弁明すると、白丁はくちょうを着ているその男は
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうでしょう、心なき御輿部屋みこしべやの後ろから姿を見せた白丁はくちょうの男が、いきなり長い竿を出して
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
行灯あんどんの、赤黒い、鈍い灯火あかりの下に、大あぐら、古ぬの子から、毛深い胸を出して、たった一人、所在なさげに、白丁はくちょうから、欠茶碗に、冷酒をついでは、ごくりごくりとっているが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
椿つばきあり、つつじあり、白丁はくちょうあり、サフランあり、黄水仙きずいせんあり、手水鉢ちょうずばちの下に玉簪花たまのかんざしあり、庭の隅にかわらのほこらを祭りてゴサン竹の藪あり、その下にはアヤメ、シヤガなど咲きて土常に湿うるおへり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と喚く鎌倉殿の、何やら太い声に、最初、白丁はくちょう豆烏帽子まめえぼしからかさかついだ宮奴みややっこは、島になる幕の下をつて、ヌイとつらを出した。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
狩衣かりぎぬ差貫さしぬきようのもの、白丁はくちょうにくくりばかま、或いは半素袍はんすおう角頭巾かくずきん折烏帽子おりえぼし中啓ちゅうけい、さながら能と神楽かぐらの衣裳屋が引越しをはじめたようにゆるぎ出すと、笛と大拍子大太鼓がカンラカンラ
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見れば、白丁はくちょうを脱いで、いつもの裾の短い着物に、腰には木刀を横たえ、荒木田氏富から大事にといわれて、二重三重に包んだ例の絵巻物の入っている箱を風呂敷で背中へ斜めに背負いこんでいる。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何だねえ——まだ、白丁はくちょうに半分も残っているじゃあないか——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
時に、宮奴みややっこよそおいした白丁はくちょうの下男が一人、露店の飴屋あめやが張りそうな、渋の大傘おおからかさを畳んで肩にかついだのが、法壇の根にあらわれた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下には浅黄色あさぎいろの短い着物を着て、上へ白丁はくちょうを引っかけて、大欠伸をした米友は、またきょとんとして大茶釜の光るのと、それから立ちのぼる湯気と、カンカンおこっている炭火とをながめていましたが
といって、白丁はくちょう衛士えじがふいにぶッたおれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時に、宮奴みやつこよそおいした白丁はくちょうの下男が一人、露店の飴屋あめやが張りさうな、しぶ大傘おおからかさたたんで肩にかついだのが、法壇の根にあらわれた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
店頭みせさきかまに突込んで諸白の燗をする、大きな白丁はくちょうの、中が少くなったが斜めに浮いて見える、上なる天井から、むッくりと垂れて、一つ、くるりと巻いたのは、たこの脚、夜の色こまやかに
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宝の市の最後のは、稚児ちご市女いちめ、順々に、後圧あとおさえの消防夫しごとしが、篝火かがりび赤き女紅場の庭を離れる時から、屋台の囃子、姫たちなど、傍目わきめらぬおんなたちは、さもないが、真先まっさき神輿みこしにのうた白丁はくちょうはじめ
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)