やみ)” の例文
つひには元禄七年甲戊十月十二日「たびやみゆめ枯埜かれのをかけめぐる」の一句をのこして浪花の花屋が旅囱りよさう客死かくしせり。是挙世きよせいの知る処なり。
ともなふどち可笑をかしがりて、くわくらん(霍乱)の薬なるべしと嘲笑あざわらひ候まま、それがし答へ候ははくらん(博覧)やみが買ひ候はんと申しき。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其後はうちに居て針仕事の稽古のみに力を尽すかたわら、読書をも勉めていたが恰度三年前、母がやみついて三月目に亡くなって
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「青年時代には、お互いに、一度はわずらう病気だよ。あまりに学問へ深入りして、学問のやみに捕われると、結局、死が光明になってしまうのだ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その様な生命いのちはの、殿、殿たちの方で言うげな、……やみほうけた牛、せさらぼえた馬で、私等わしらがにも役にも立たぬ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さなきだにやみ疲れし上に、嬰児みどりごを産み落せし事なれば、今まで張りつめし気の、一時にゆるみ出でて、重き枕いよいよ上らず、明日あすをも知れぬ命となりしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
三田もふいと乘つてみる氣になつて、一人乘の端艇を借りたのがやみつきになり、天氣のいゝ日には、大概晩食後、すつかり暮れきる迄の時間を水の上に過した。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ものやみになりて死ぬべき時に、かくこそ思ひしかといひけるを、おや聞きつけて、泣く泣く告げたりければ、まどひ來りけれど、死にければ、つれづれとこもりをりけり。
伊勢物語など (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
五郎蔵の乾児どもであった。その横に立って、腕組みをし、勝負を見ているのは、これも用心棒の小林紋太郎で、その南京豆のような顔は、蝋燭の光で黄疸やみのように見えていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
胸に縮めて寒げにかぢけ行くのみなくこゑはなし涙は雨に洗はれしなるべし此の母の心は如何ならん夫は死せしかやみて破屋の中に臥すかいづれに行かんとし又何をなさんとするや胸に飮む熱き涙に雨を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
やみの如むくみぬ。すは
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
つひには元禄七年甲戊十月十二日「たびやみゆめ枯埜かれのをかけめぐる」の一句をのこして浪花の花屋が旅囱りよさう客死かくしせり。是挙世きよせいの知る処なり。
見る間に太る額の蒼筋あおすじ癇癪持かんしゃくもちの頭痛やみにて、中年以来丸髷まるまげに結いしこと無き難物なれば、何かはもってたまるべき。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爾がためには父のみか、母もやみ歿みまかりたれば、取不直とりもなおさず両親ふたおやあだ、年頃つもる意恨の牙先、今こそ思ひ知らすべし
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
かゝるあとへおなじ田中の者こゝに来り、武士の雪中にたふれておきもあがらざるを不審いぶかり立よりて、なにぞやみ玉ふかといへば、武士はかなきこゑしておこしくれよといふ。
うぬが使ってる者がこんな怪我をしてるのに、医者に寄越よこすッて、ないらやみの猫を押放おっぱなしたような工合は何たる処置だい、あねさんをつけて寄越さないまでも、腕車くるまというものがないのじゃあなかろう
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)