生一本きいっぽん)” の例文
「満州なんかだめだよ、酒は高粱きびの酒で、うものは、ぶたか犬かしかないと云うじゃねえか、だめだよ、魚軒さしみなだ生一本きいっぽんでなくちゃ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と彼はいっとき腹をかためてはいた。しかし、龍泉殿の生一本きいっぽんな気性は彼も知っている。取り返しのつかぬことはしてはならない。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その性格が生一本きいっぽんで、妥協も誇張も、劇的表現さえも、その作品にれることが出来なかった正直さのためであったらしい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
あの矯飾していたような中に生一本きいっぽんな気質を蔵していたということが分って、こんな些細ささいな事が快く思い出されるのである。
しかしジャックリーヌは彼らよりいっそうまっ正直であって、生一本きいっぽんな行動をしていた。一にも二にも真面目まじめであり、常住不断に真面目だった。
やっぱりイギリス製のウィスキーだけありますねえ。これは英帝国えいていこくさかんなりし時代の生一本きいっぽんですよ。間違いなしです
ずっと後になって私は、ある新聞記事に「××首相はきょうは夕食になだ生一本きいっぽんでまぐろのさしみを食べた。」
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
生一本きいっぽんに打込むようになると、自分が愛するだけ、他から愛してもらわなければ満足ができないものになってみると、相手はこの上もない大敵であります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たたかいちまたを幾度もくぐったらしい、日に焼けて男性的なオッタヴィアナの顔は、飽く事なき功名心と、強い意志と、生一本きいっぽんな気象とで、固い輪郭りんかくを描いていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
定基は勿論悪人というのではないが、つまりは馬で言えば癇強かんづよな馬で、人としては生一本きいっぽんの人であったろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
生一本きいっぽんの酒を飲むことの自由自在、孫悟空そんごくうが雲に乗り霧を起こすがごとき、通力つうりきを持っていたもう「富豪」「成功の人」「カーネーギー」「なんとかフェラー」
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『ハイ私は生一本きいっぽんで通します』ッて……マアあきれかえるじゃアないかネー文さん、何処の国にお前、尼じゃアあるまいし、亭主ていし持たずに一生暮すもんが有るもんかネ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
猛烈に愛した経験も、生一本きいっぽんに愛された記憶ももたない彼女は、この能力の最大限がどのくらい強く大きなものであるかという事をまだ知らずにいる女であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男は純潔な生一本きいっぽんな少年の心に、這入り切れないほどの重苦しい物を托して行った。自分が明日の朝までに用意して置く返答に依って、自分の将来がどうにでもなる。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ホントウの慾得を忘れた犯罪心理……生一本きいっぽんの出来心から起った犯罪を純粋犯罪というのだそうで、この種の犯罪は世の中が開けて来るに連れてえて来るものである。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それが処女の生一本きいっぽんの情熱で思い決しているのだから、僕は打たれた。死んでもいいと思った。崇高そのものですよ。君は信じられないかね。これ以上の崇高はないですよ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
或は保子さんのあの生一本きいっぽんな性情から出たことかも知れない。それは兎に角として、横田さんの申出をお祖母さんは非常に喜んだ。そして子供は横田さんの家に引取られた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
まじめな生一本きいっぽんの男とむかっていて、やましい暗い心を抱くとはけしからぬことである。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
江戸のおんなが、どんなに生一本きいっぽんな気持をもっているか知らせてやろう——なあに、あいつが、うなずかねえというなら、そのときは、あいつの敵の味方になって、さんざ泣かせてやるだけだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こういう見張り人がそばに控えているので、半九郎も少し言いそそくれたが、生一本きいっぽんな彼の性質として、自分の思っていることは直ぐに打ち出してしまいたかったので、彼は思い切って言った。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
藪蔭から飛び出して、手負いのお通をかばったのは、旅人の清作でした。役目も、身分も、前後の事情を忘れ果てて、激情に駆られた生一本きいっぽんの姿です。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
一馬は時々生一本きいっぽんに思いこんですごむから、私はどうも、つきあいにくい。私は然し、至ってツキアイのいい方だから、何かというとホダされて、どうもいけないタチである。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
先方の譲り渡しに大きなワナが仕かけられていたのである、我々は生一本きいっぽんに引受けてしまってから、そのワナに引懸ったのである、それが為に事業は最大級に悪化してしまった
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼のたれより生一本きいっぽんな皇室至上の理念とその気位が、尊氏のような武士層に人気のいいいわゆる“あらえびす”にたいしては、危険視が先立って、よくその人間を知ろうともせず
けっして純粋な生一本きいっぽんの動機からここに立って大きな声を出しているのではない。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
純真生一本きいっぽんの恋以外には取上げない運命の神様である。だからその純真生一本の盲目の恋だったらイツ何時なんどきでも引受る。身分が何だ。財産が何だ。名誉が何だ。そんなものは犬に喰われろだ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それほど父の母を恋うる心は純粋で、生一本きいっぽんであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「マア、何んて間抜けな調子でしょう。だけど、私は、早坂さんのその生一本きいっぽんなところが好きよ」
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その犯人のそうした執念深い慾望をキレイにち切ってしまうかどうかしなければ、どうしても気が済まない、生一本きいっぽんの娘の心理とが、タマラナイ程深刻にえがきあらわしてあった……と云うのです。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
邪推とはいわないけれども、筋道の考え方が生一本きいっぽんに過ぎていました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どうせ——は情けねえ、見て下さいよ、梅寿堂ばいじゅどうの上菓子が一と折、なだ生一本きいっぽんが五升」
「勿体ないことでございますな、おいやならば私が頂戴致しましょう、おさがりでありましょうとも、お余りでありましょうとも、うまい物には眼のないこのがんりき、まして手入らずの生一本きいっぽんときては……」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「とんでもない。岡っ引きが一緒だった日にゃなだ生一本きいっぽんが、大川の水みたいになる」
娘の生一本きいっぽんさ。平次の膝にでもすがりつきたい様子です。