猥雑わいざつ)” の例文
旧字:猥雜
Matsu・ホテルの青い建物では満艦飾まんかんしょくのグロテスクな女が意気で猥雑わいざつなブラック・ボトンを踊り、天界ホテルでは白痴のマリが
スポールティフな娼婦 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
また自分たちが猥雑わいざつな心もちにとらわれやすいものだから、男女なんにょの情さえ書いてあれば、どんな書物でも、すぐ誨淫かいいんの書にしてしまう。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし此処でもその猥雑わいざつさは、われわれの古い時代の舞台のために書かれた戯曲(たとえばシェークスピアのヘンリー五世の如き)
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
猥雑わいざつなことを語っていても、その話手がまじめな顔をしていると、まじめな顔をしているから、それは、まじめな話である。
一歩前進二歩退却 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして夕方帰り道では、列車の混雑、低い狭い薄暗いみじめな郊外客車の、むせるほどの人込み、喧騒けんそう、笑い声、歌の声、猥雑わいざつ、悪臭、たばこの煙。
彼等がその芸術的に訓練されない猥雑わいざつの口語文を以てした為に、外国文学に見る如き高貴な詩人的の心を失い、江戸文学の続篇たる野卑俗調の戯作げさくに甘んじ
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
どんな淑女でも、夜の夢では、昼間の生活からは想像もできない猥雑わいざつ残虐の行動をすることがあります。それは夢が抑圧された本能のはけ口だからと申します。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
剣道の奥義おうぎを会得するために念々修業しております、しかるにあの娘たちは淫卑いんび猥雑わいざつ、けがらわしき言動を以てわれわれを悩まし、神聖なる草庵を汚涜おとくいたします
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこにはいつも人がうようよいて、やたらにわめいたり、大声に笑ったり、ののしり合ったり、しゃがれ声で猥雑わいざつな歌をうたったり、しょっちゅう喧嘩けんかまでしていた。
よるものは、もちろん、宴もくずれてからの座興なので、みだらな寸劇や、猥雑わいざつな舞踊が多かった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耶蘇坊主の猥雑わいざつ極まる詐欺に比べて遥かに罪が軽い、それから『川角太閤記かわすみたいこうき』四に、文禄元辰二月時分より三井寺の鐘鳴りやみ、妙なる義と天下に取り沙汰の事と見ゆ
怪しからんことには、とうとう私達は今死んだ娘の事について猥雑わいざつな会話を交していた。私は疲れた。しかし、此のまま別れて家に帰るには、妙に離れ難い気持になっていた。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
猥雑わいざつな呪法や魔術をひろめて、どれだけ正統的な切支丹宗門の邪魔をしたかわかりませんが、その後、幕府の禁令が厳しかったので、いつともなしに亡び失せてしまいました。
「ヤレ突けそれ突け」というのは、——この時代の事ですから、今から考えると随分思い切った乱暴な猥雑わいざつなものですが——小屋の表には後姿の女が裲襠しかけを着て、背を見せている。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
自然にわきあがってきた民族としての子供の声であった。その中にはむろん平俗なのもあった、いかがわしい猥雑わいざつなおとなのものもあった。しかしほんとうの子供の声はその中にあった。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
猥雑わいざつなレヴュウを観て居る裡に、忽ちそんな場所に居る事が莫迦莫迦ばかばかしくなり一刻も早く直接女との交渉を持った方が切実だと謂う気になりまして直ぐさま其処を飛び出して了いましたものの
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
猿楽の狂言および俗間の茶番狂言なるもの体裁ていさいさらにし。今一歩を進め、猥雑わいざつに流れず時情にへだたらず、滑稽の中に諷刺をぐうし、時弊を譏諫きかんすることなどあらば、世の益となることまた少なからず。
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
汚すような肉体的の放縦猥雑わいざつに堪え得ないことは当然です
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
げすな猥雑わいざつな感じがしてならないのである。
役者の一生 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そこからルーマニアの士官と、スペイン女のあの意気で猥雑わいざつなタンゴが始まると、人々は腰を高く振って、歓声をあげるのでした。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
又自分たちが猥雑わいざつな心もちにとらはれ易いものだから、男女なんによの情さへ書いてあれば、どんな書物でも、すぐ誨淫くわいいんの書にしてしまふ。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おなじ羽色のからすが数百羽集ると猥雑わいざつに見えて来るので同類たがいに顰蹙ひんしゅくし合うに到る、という可笑おかしい心理に依るのかも知れないが、自分もやはり清国留学生
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして猥雑わいざつな映画の動きに眼を放しながら、幾時間かを過して外へ出ると夜だった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
猥雑わいざつな声で何やらげらげら語りあい、みな獰猛どうもうな眼と、そして矛、野太刀などの兇器を持ち、まるで赤鬼のような顔をそろえて、居ぎたなく、炎のまわりに、寝まろんでいるのだった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今の裸レヴィユなどは足もとにも追い付かぬ猥雑わいざつな見世物があり、それが黙許されて居たくらいですから、『一と目千両』の美女の見世物があったところで、何んの不思議もありません。
日本の僧侶など一向歯牙しがにも掛けなんだらしいが、それは洋人が、『古事記』『日本紀』を猥雑わいざつ取るに足らぬ書と評すると一般で、余が交わった多くのインド学生中には羅摩の勇、私陀の貞
皆、皮膚のざらざらした、そしてすさんだ表情をしていた。その中の一人は、何か猥雑わいざつな調子で流行歌を甲高かんだかい声で歌っていた。何か言っては笑い合うその声に、何とも言えないいやな響きがあった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そして、ジャズの音が激しく、光芒のなかで、歔欷すすりなくように、或は、猥雑わいざつ顫律せんりつただよわせて、色欲のテープを、女郎じょろうぐものように吐き出した。
裏長屋の熊公八公より卑しく猥雑わいざつで無恥乱倫だといきまく考証家も少なくない。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
途々、われわれ勅使の一行が参ると、うすぎたない住民どもが、車騎に近づいたり、指さしたりなど、はなはだ猥雑わいざつていで見物しておったが、かりそめにも、勅使を迎えるに、なんということだ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我らに阿諛あゆなし、猥雑わいざつの世をはるかに見下して、飢と貧困の楼高く我らはうたう。
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたしの愛情、赤いポストにするまで。と、味噌歯みそっぱを出してわらったのだが、金羊毛の舞踊室から無頼漢ぶらいかんの礼讃を象徴するような意気で猥雑わいざつなタンゴが響いてくると、急に奔放な馬のような女となって
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)