狼狽うろたへ)” の例文
云掛られ夫さへ心にさはらぬ樣云拔いひぬけて居しに今日隅田川すみだがは渡船わたしぶねにて誰かは知ず行違ゆきちがひに面を見合せしよりにはかに吾助が顏色變り狼狽うろたへたるてい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うなると、狼狽うろたへる、あわてる、たしかに半分は夢中になツて、つまずくやらころぶやらといふ鹽梅あんばいで、たゞむやみと先を急いだが、さてうしても村道へ出ない。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
よしや仔細を聴たとてまさか私が狼狽うろたへまはり動転するやうなことはせぬに、女と軽しめて何事も知らせずに置き隠し立して置く良人うちのひとの了簡は兎も角も
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
明るい洋燈の光りと烈しい気象の輝く竹山の眼とが、何といふ事もなしに渠の心を狼狽うろたへさせた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
みづうつつきうばはんとする山猿やまざるよ、無芸むげい無能むのうしよくもたれ総身そうみ智恵ちゑまはりかぬるをとこよ、よつうをもとくさうつへびをどろ狼狽うろたへものよ、白粉おしろいせて成仏じやうぶつせんことねが艶治郎ゑんぢらう
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
しかも富山と宮とは隣合となりあひに坐りければ、夜と昼との一時いちじに来にけんやうに皆狼狽うろたへ騒ぎて、たちまちその隣に自ら社会党ととなふる一組をいだせり。彼等の主義は不平にして、その目的は破壊なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まことに結構な心掛だが、博士がそんなにまでして折角覚え込んだ帽子を、どうかすると、相客が間違つてさつさとかぶつてく事があるので、そんな時の博士の狼狽うろたへさ加減といつたらない。
聞居られしが其後そののちかれが弟願山の事におよび江戸表のてらは何方の徒弟とていなるやとたゞさるゝに至りて多兵衞はハツと心付おほいに狼狽うろたへ樣子やうす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
狼狽うろたへて飛び起きさまに道具箱へ手を突込んだは半分夢で半分うつゝ、眼が全く覚めて見ますれば指の先を鐔鑿つばのみにつつかけて怪我をしながら道具箱につかまつて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「何故那麽に狼狽うろたへたらう? 吉野さんが被來いらしつてゐたとて! 何が怖かつたらう! 清子さんも可笑しいと思つたであらう! 何故那麽に狼狽うろたへたらう? 何も譯が無いぢやないか!」
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
相手にたゝかひ居によりかくたすけんと存じ宵闇よひやみ暗紛くらまぎれに切付たるは女の聲ゆゑ偖は女房を切たるかと狼狽うろたへたる處に傍邊かたはらより男一人打て掛りしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)