牡鹿おじか)” の例文
もう一ぴき牝鹿めじかは、うみを一つへだてた淡路国あわじのくに野島のじまんでいました。牡鹿おじかはこの二ひき牝鹿めじかあいだ始終しじゅう行ったりたりしていました。
夢占 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
海が幾日もれて、山中の食料がつきた場合には、対岸の牡鹿おじか半島にむかって合図の鐘をくと、半島の南端、鮎川あゆかわ村の忠実なる漁民は
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ほう、ほう、と鹿のく声がする——。それに気づいてひとみをこらして見ると、牝鹿めじか牡鹿おじかが、月の夜を戯れつつさまよっているのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早稲田わさだだからもうみのっているのだが、牡鹿おじかが妻喚ぶのをあわれに思って、それを驚かすに忍びないという歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その時の彼の心のうちには、さっき射損じた一頭の牡鹿おじかが、まだ折々は未練がましく、あざやかな姿を浮べていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
How many horns has the buck?「いかに 多くの 角を 牡鹿おじかが 持つか」
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
牡鹿おじか獅子ししのそばにねているところや、殺されたものがむくむくと起き上がって、自分を殺したものを抱擁ほうようするところを、ちゃんと自分の眼で見届けたいのだ。
ウィリアムはがけを飛ぶ牡鹿おじかの如く、くびすをめぐらして、盾をとって来る。女「只懸命に盾のおもてを見給え」と云う。ウィリアムは無言のまま盾をいだいて、池の縁に坐る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
衣冠束帯の大百日だいひゃくにちで、六法をきってみようというような華美はでな芝居気のない男ですから、この床下を選んだことにしてからが、一方は牡鹿おじか半島方面の船の到着が気にかかり
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一方、大将軍九郎御曹司義経は、七日の明方、三千余騎で鵯越ひよどりごえにのぼり、人馬を休ませていたが、その騒ぎに驚いたか、牡鹿おじか二匹、牝鹿めじか一匹が平家の城の一の谷へ逃げ下りた。
すると、すすきの原におおわれた小山の背面からは、一斉に枯木の林が動揺どよめきながら二人の方へ進んで来た。それは牡鹿おじかの群だった。馬は散乱する鹿の中を突き破って馳け下った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その後間もなく市政のかれたこの町は、太平洋に突き出た牡鹿おじか半島の咽喉いんこうやくし、仙台湾に注ぐ北上河きたかみがわの河口に臨んだ物資の集散地で、鉄道輸送の開ける前は、海と河との水運により
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なんじけがらわしき物は何もくらなかれ。汝らがくらうべき獣蓄けものこれなりすなわち牛、羊、山羊やぎ牡鹿おじか羚羊かもしか、小鹿、やまひつじくじかおおじかおおくじか、など。すべ獣蓄けもの中蹄うちひづめの分れ割れて二つの蹄を成せる反蒭獣にれはむけものは汝らこれくらうべし。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
むかし、摂津国せっつのくに刀我野とがのというところに、一ぴき牡鹿おじかんでいました。この牡鹿おじかには二ひきなかのいい牝鹿めじかがあって、一ぴき牝鹿めじか摂津国せっつのくに夢野ゆめのんでいました。
夢占 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
御存ごぞんじの通り牡鹿おじかの角は、成長するにつれて枝の数が多くなり、五本ぐらいがまず大鹿である。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
みちのく平泉の藤原秀衡ひでひらの庇護の下にいて、自然児ぶりを振舞っていた源九郎義経は、熊野の新宮に叔父がいるのを知って、牡鹿おじかの港から熊野通いの船にひそみ、紀州へ来て
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牡鹿おじか桃生ももふ、志田、仙台の界隈かいわいをそう遠く離れるに及ばないということを、白雲は白雲なみに断定して、漫然とこの北上川の沿岸を漂浪しているうちには、何とか手がかりがあるだろう。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
野にも山にもしきりに牡鹿おじかが鳴いている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そういて、牡鹿おじかはこわくなりました。どうしようかとおもって、とうとうその日は一にちぐずぐずらしていましたが、日がれかかると、どうしてもがまんができなくなりました。
夢占 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
例えば奥州金華山きんかざんの権現は、山と土が草鞋について、島から外へ出ることを惜しまれるということで、参詣した者は、必ずそれをぬぎ捨ててから船に乗りました。(笈埃随筆。宮城県牡鹿おじか郡鮎川村)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
若い牡鹿おじかは自分の力で
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)