煮炊にたき)” の例文
煮炊にたきもろくな事は出来ない。しかし若旦那よりは上手であろう。これを貸してくれようと云うのである。お母様は同意なすった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それを見て、水をすかしているふたりの士卒しそつがいった。大久保勢おおくぼぜい兵糧方ひょうろうがためししる煮炊にたきする身分のかるい兵である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はテントをこしらえる必要がありますので六日ばかり逗留しましたが、二十五ルピー(一ルピーは六十七銭)で中で煮炊にたきの出来る位の広さのテントが出来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
煮炊にたきに不自由はない、一枚の大岩を屏風とも、棟梁とも頼んで、そこへ油紙の天幕テントを張った、夕飯の仕度にかかっているうち、嘉門次もエッサラとあがって来た
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
商売の出来るように致しました、この丈助は男でありながら煮炊にたきをしたり、すゝぎ洗濯までいたします。
それをたばにして、がっちりとここへ並べて置きなせえ。それから、煮炊にたきをする鍋釜、米と塩、鰹節と切干——食料は、よく中身を調べて、この次へこうしてお置きなせえ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
馬丁べっとうと、小間使と女中と、三人が附いて来たが、煮炊にたきが間に合うようになると、一度、新世帯のお手料理を御馳走ごちそうになった切り、その二人は帰った、年上の女中だけ残って。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
持ち出で傳吉が前に差し置きさぞやお空腹ひもじう候はん私し一人にて煮炊にたき致し候ゆゑいそぐとすれども時移ときうつりお待ち兼て在りしならん緩々ゆる/\あがりておやすみなされませと言ふものごしに愛敬あいきやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼等回回教徒マホメダンの習慣として人種の煮炊にたきした物は食はない、炭薪すみまき携帯でだ水の給与を船から受けるだけさうして自炊した食物を大皿に盛つて右の手でつかんで食ふ。一切箸を用ひない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
××村の小學校では、小使の老爺おやぢ煮炊にたきをさして校長の田邊が常宿直をしてゐた。その代り職員室で使ふ茶代と新聞代は宿直料の中から出すことにしてある。宿直料は一晩八錢である。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
針仕事も煮炊にたきもよくは出来ない道子は手馴れない家庭の雑用に追われる。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
男二人の事ですから、煮炊にたきは無論できません。我々は爺さんに頼んで近所の宿屋から三度三度食事を運んで貰う事にしました。夜は電灯の設備がありますから、洋灯ランプとも手数てかずらないのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「だって何も持たないのだもの、ふやさなきゃ煮炊にたきもできませんよ」
淪落の青春 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「冬になってからは、誰が煮炊にたきをするのだね。」
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
煮炊にたきのけむりよ
(旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
自分には煮炊にたきも出来ずお前が此様な病気でも見舞に来る人もないから知らせる人もなし、物を食べなけりゃア力が附かないから、是では仮令たとえ病気でなくとも死にます
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
××村の小学校では、小使の老爺おやぢ煮炊にたきをさして校長の田辺が常宿直じやうしゆくちよくをしてゐた。その代り職員室でつかふ茶代と新聞代は宿直料の中から出すことにしてある。宿直料は一晩八銭である。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
針仕事はりしごと煮炊にたきもよくは出来できない道子みちこ手馴てなれない家庭かてい雑用ざつようはれる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
煮炊にたきをするのだ、山頂の風雨とはいいながら、焚火さえあれば、先ず生命に別条がないということを知っているから、連中懸命になって、薪材を山のようにはこんで、火のそばへ盛り上げたものだ
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
尤も伯父のうちき近くでございますから、晋齋も毎日見廻ってくれるし、三食とも運んでくれるので自分で煮炊にたきするにも及ばない、唯仏壇に向ってその身の懺悔のみいたして日を送っております。