炭俵すみだわら)” の例文
しおの引く時泥土でいどは目のとどく限り引続いて、岸近くには古下駄に炭俵すみだわら、さては皿小鉢や椀のかけらに船虫ふなむしのうようよと這寄はいよるばかり。
現に離れ島や九州の外側海岸などには、今も豆腐は知っていても、家にはまだ挽臼ひきうすを備えない例が稀なりとせぬ。『炭俵すみだわら』の連句に
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これだけで、人間にんげんが、一ねんじゅうの生活せいかつをするとかんがえると、ひとつの炭俵すみだわらにも、いのちがけのしんけんなものがあるはずでありました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
渡り終って一息ついて居ると、炭俵すみだわらを負うた若い女が山から下りて来たが、たたずむ余等に横目をくれて、飛ぶが如く彼吊橋つりばしを渡って往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
二年ばかり前まできびの葉の流れていた下田端へでたが、泥濘ぬかった水溜りに敷き込んだ炭俵すみだわらの上を踏むと、ずぶりと足の甲へまで泥水が浸った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
炭俵すみだわらに入れられて、一日揚板あげいたの下へめられた事があったッて君は云っていた事があったが、前の男の気持ちだって、何だか僕にはだんだんわかって来たよ
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その止まり木の長さは鶏が五羽ならば三尺余十羽ならば六尺余です。それから屋根の下の四方を手軽にすれば炭俵すみだわら二枚合せて止まり木を真中まんなかにして囲います。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
縁側へ出て、履物はきものへ足を下ろした。汚ない裏の空地に、菜漬樽なづけだる炭俵すみだわらなどの見えている納屋がある。中へ入って、安兵衛はこものかぶせてある大きな張籠はりかごの中をあらためていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪の日やとりの出て来る炭俵すみだわら
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
炭俵すみだわら、はたまき
霜夜 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
ひとりのたかい、かみのぼうぼうとした、ばかりひかる、いろくろおとこが、なつのさかりに、おおきな炭俵すみだわらをおって、このけわしい山道やまみちあるいて、まちりにきました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
『七部集』の附合つけあいの中には、木綿もめん風情ふぜいを句にしたものが三カ処ある。それから木綿とは言ってないが、次の『炭俵すみだわら』の一節もやはりそれだろうと私は思っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だけど軍手をはめて、がらがらと炭俵すみだわらをゆすぶって、炭を一つ一つとつまんでいる時は、私が女のせいか、やっぱり愉しい本業へかえったようで、楽々とした気持ちなのだ。
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
矢田は歩きながら、砂利に靴の裏をこすりこすりもとの堀端へ出ると、丁度曲角まがりかどの軒下にまき炭俵すみだわらとが積んであったのでやっと靴の掃除をし終った時、呼びもしない円タクが二人の前にとまった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
炭俵すみだわらをつけてゆくもの、またまきのようなものをつけてゆくもの、それらのくるまのわだちのおとが、あとになり、さきになりして、くらいさびしいみちをあちらにえていったのであります。
少女がこなかったら (新字新仮名) / 小川未明(著)
古いところでは宜麦ぎばくの『続絵歌仙ぞくえかせん』などという絵解えときを見ると、あまりにも私らの胸に描いていたものと、ちがっているのがまず滑稽こっけいである。一つだけ例を引くならば『炭俵すみだわら』の一聯いちれん
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)