漫然まんぜん)” の例文
もっとも津村の云うような「職業意識」も手伝っていたが、正直のところ、まあ漫然まんぜんたる行楽の方が主であったのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だから卷煙草まきたばこをつけたわたくしは、ひとつにはこの小娘こむすめ存在そんざいわすれたいとこころもちもあつて、今度こんどはポケットの夕刊ゆふかん漫然まんぜんひざうへへひろげてた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ漫然まんぜんとして空裏くうり飛揚ひようする愛であった。したがってお延の努力は、風船玉のようなお秀の話を、まず下へ引きりおろさなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるに今日こんにち状態ぜうたい如何いかゞであるか、外語研究ぐわいごけんきう旺盛わうせいはまことに結構けつこうであるが、一てんして漫然まんぜんたる外語崇拜ぐわいごすうはいとなり、母語ぼご輕侮けいぶとなり、理由りいうなくして母語ぼご
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
漫然まんぜん世と推移おしうつりて、道理上よりいえば人事の末とも名づくべき政事政談に熱するが如き、我輩は失敬ながらもとを知らずしてすえに走るの人と評せざるを得ざるなり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私はどうして彼がそんな事を口走ったのか、まるで判断もつかず、漫然まんぜんと聞返した。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
民情に通じ、下賤げせんきわめることをもって奉行職の一必要事とかんじている越前守は、お役の暇を見てよくこうして江戸の巷を漫然まんぜんと散策することを心がけてもいたし、またこのんでもいたのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
圭さんはへそを洗うのをやめて、湯槽のふちひじをかけて漫然まんぜんと、硝子越ガラスごしに外を眺めている。碌さんは首だけ湯にかって、相手の臍から上を見上げた。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝からひる少し前まで、仕事をしたら、へとへとになったから、飯を食って、水風呂みずぶろへはいって、漫然まんぜんと四角な字ばかり並んだ古本をあけて読んでいると、赤木桁平あかぎこうへい
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
以上いじやう日本にほん固有名こいうめいこと地名ちめいについて、その理由りいうなく改惡かいあくされることのなるをべたが、ここにさら寒心かんしんすべきは、吾人ごじん日用語にちようごが、適當てきたう理由りいうなくして漫然まんぜん歐米化おうべいくわされつゝあるの事實じじつである。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
と口のうちで小声にじゅしつつ漫然まんぜんと浮いていると、どこかでく三味線のが聞える。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな理窟りくつの立たない漫然まんぜんとしたものではないのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちへ帰ると、門野かどのが例の如く漫然まんぜんたる顔をして
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)