渦中かちゅう)” の例文
もっと突き進んで行って、血みどろな光景に接したかった。そればかりか、彼は犯罪事件の渦中かちゅうに巻込まれることさえいとわなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今度の大獄に連座れんざした人たちはいずれもその渦中かちゅうに立っていないものはない。その中には、六人の婦人さえまじっている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
比叡山ひえいざん延暦寺えんりゃくじの山法師、興福寺の奈良法師、所謂いわゆる僧兵の兇暴きょうぼうぶりは周知のとおりであり、事毎に争乱の渦中かちゅうにあった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
同人らは雑誌を争論の渦中かちゅうに投げ出そうとはせずに、むしろ雑誌をクリストフから引き離そうと思った。彼らは雑誌の評判が傷つけられるのに驚いた。
私たちがまだこんないやな世の中の渦中かちゅうに巻き込まれないでいられたころを、なぜむだにばかりしたのでしょう。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
二人は明らかに喧嘩けんかをしていた。その喧嘩の渦中かちゅうには、知らないに、自分が引き込まれていた。あるいは自分がこの喧嘩のおもな原因かも分らなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
間違いはないが卑怯ひきょうだぜ! 勇気があったら渦中かちゅうへ投じろ! が待ってくれ、そうはいっても、むやみと雑兵ぞうひょうに荒らされても、探索の手口が狂ってしまう。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、そこからの遠目にも、彼方かなたの真っ黒な斬り合いの渦中かちゅうから、ぱッ、ぱッ、と血しぶきが立ち、一つ仆れ二つ仆れ、死骸が野にころがるのを見ると
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何をいかるやいかの——にわかげきする数千突如とつじょとして山くずれ落つ鵯越ひよどりごえ逆落さかおとし、四絃しげんはし撥音ばちおと急雨きゅううの如く、あっと思う間もなく身は悲壮ひそう渦中かちゅうきこまれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうしてすべてこれらの混乱の渦中かちゅうにあって、今や我々の多くはその心内において自己分裂のいたましき悲劇に際会しているのである。思想の中心を失っているのである。
ロンドンのちまたに喧嘩けんかがあると、職務がらの礼状を発することなく、みずからその渦中かちゅうに飛びこみ、「サアここにヒュースが来た、ヒュースの拳骨げんこつを知らぬか」と名乗なの
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ただにそれを否定し得なかったばかりでなく、自らその渦中かちゅうのひとりであった。それはまさしく現実であった。現実がかかる異様な姿になり得るとは、実にのろうべきことだった。
渦中かちゅうい巻き込んだこと、何から何まで素ッ葉抜きそうな勢いやのんです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そういうことは、君のような第三者が立ち入らなくてもいいことだ。これまで渦中かちゅうにとびこんで散々苦労をして来た次郎君は、君らの想像以上に、ものを深く考えるようになっているからね。」
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
われに思ふ所あり、なんぞみだりになんじ渦中かちゅうに落ち入らんや。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
もしこの忠告を用いずして、事件の渦中かちゅうに飛び込むようなことがあれば、君は悔いても及ばぬ一大不幸に見舞われるであろう。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
翌日番町へ行ったら、岡田一人のために宅中うちじゅう騒々しくにぎわっていた。兄もほかの事と違うという意味か、別ににがい顔もせずに、その渦中かちゅう捲込まきこまれて黙っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その影響は意外なところへ及んで、多少なりとも彼らのために便宜を計ったものは、すべて偽官軍の徒党と言われるほどのばからしい流言の渦中かちゅうに巻き込まれた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いさぎよく自身で渦中かちゅうを去り、宗教を深く信じて冷静に百年の計をされたのである。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
時勢の渦中かちゅうへ引きずり込んでゆくぞ——さ、これから僕とともに京都へ行こう
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兎も角も、彼は大犯罪事件の渦中かちゅうに身を投じたのだ。それが、彼の探偵本能に一種異様の満足を与えた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
同時に、香蔵の京都行きから深く刺激された心を抱いて、激しい動揺の渦中かちゅうへ飛び込んで行ったあの友だちとは反対に、しばらく寂しい奥山の方へ行こうとした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なるほど正風の旗をひるがえすのは、天下をはさんで事を成すようなもので当時にあって実利上大切であったかも知れませんがその争奪の渦中かちゅうから一歩退いて眺めたら全く無意味としか思われません。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奇怪な犯罪事件の渦中かちゅうにまき込まれて、素人探偵を気取ることも、子供らしい彼には随分面白かったが、それよりも、今までは、何か段違いの相手の様な気がして
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
当時、平田篤胤あつたね没後の門人は諸国を通じて千人近くに達するほどの勢いで、その中には古学の研究と宣伝のみに満足せず、自ら進んで討幕運動の渦中かちゅうに身を投ずるものも少なくなかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実を云うと、僕自身もこの血腥ちなまぐさい事件の渦中かちゅうの一人に違いない。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私はとうとう殺人事件の渦中かちゅうに巻き込まれた形でした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)