水鶏くいな)” の例文
旧字:水鷄
星野温泉の宿の池に毎朝水鶏くいなが来て鳴く。こぶし大の石ころを一秒に三四ぐらいのテンポで続けざまにたたき合わせるような音である。
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
解けやらぬ小川の氷の上にはあおじが飛び、空しい枝の桑畠にはつぐみが鳴き、はんの根の枯草からは水鶏くいなが羽音高く驚き立った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
水鶏くいなが好んで集まる、粘土ねばつちあしが一面に生いしげったところをじくじく流れる、ほとんど目につかないような小川で、本土から隔てられている。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
そんな事もあったりして、四月になると、京はあおい祭り、やがて節句、長喜庵の水鶏くいなきき、丸山の寮の招き、祇園の稚子行列。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水鶏くいなだって、わが家の戸を叩いたかと思うくらい近くを啼いてゆく。——それにしても、何んとまあ物思い自身の巣くっているようなすみかなのだろうかしら。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一つ撓直ためなおして、扉を開けるのですから、出会がしらに、水鶏くいなでもお辞儀をしそうな、この奥庭に、松風で。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝から晩までべちゃくちゃさえず葭原雀よしわらすずめの隠れにもなる。五月雨さみだれの夜にコト/\たた水鶏くいなの宿にもなる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「たたく水鶏くいなについだまされて……月に恥ずかしいわが姿……なんてことをおっしゃいましたッてね」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
先ず小鳥類のうち田鴫たしぎ雲雀ひばり水鶏くいなひよ金雀ひわ椋鳥むくどりつむぎ、雀なぞは殺してから中を一日置いて三日目を食べ頃としますし、うずら山鴫やましぎ、カケスなぞは四日目を食べ頃とします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのまた陰影の地に落ちたところなどに水鶏くいなが戸をたたく音に似た声で鳴いているのもおもしろい庭も控えたこうした所で、優秀な楽器に対していることに源氏は興味を覚えて
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
水鶏くいなは冬より夏の方がうまい。鴨も夏池に残っているものはうまいだろう。
料理メモ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
くしこうがいも何処へやら」、「夏衣」、「初音はつね待たるる時鳥ほととぎす」、「ねやの戸叩く水鶏くいな」、「蚊屋の中」、「晴れて逢う夜」、「見返り柳」、などの刺激の強い表象が、春夏秋冬にはめて並べられている。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ここは三四代前からの牧瀬のやしきで、隣接する歳子の兄の家の敷地も昔はこの邸内になつてゐた。昔この辺は全く江戸の田舎いなかで、きつねたぬきみ、この池のけ口へは渋谷川から水鶏くいなが上つた程だつた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
蚊遣火かやりびの煙にとざす草のいおを人しも訪はば水鶏くいな聞かせむ
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
なわ朽ちて水鶏くいなたたけばあく戸なり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
ところが同じ巻の終わりに近く、同人が「このしろをる」という句を出してその次の自分の番に「水鶏くいなの起こす寝ざめ」を持ち出している。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夏は青々として眼がさめる。葭切よしきり水鶏くいな棲家すみかになる。螢が此処からふらりと出て来て、田面に乱れ、墓地を飛んでは人魂ひとだまを真似て、時々は彼が家の蚊帳かやの天井まで舞い込む。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「鷭だよ、鷭だよ、お次の鷭だよ、晩の鷭だよ、月の鷭だよ、深夜よなかの鷭だよ、トンとつけてトントントンとサ、おっとそいつは水鶏くいなだ、水鶏だ、トントントトン。」と下りてく。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美しい源氏と月のさす所に出ていることは恥ずかしかったが、初めから花散里はそこに出ていたのでそのままいた。この態度が源氏の気持ちを楽にした。水鶏くいなが近くで鳴くのを聞いて
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
先ず大別すれば三通りの焼き方がありまして、雀、田鴫たしぎつぐみ椋鳥むくどり雲雀ひばり水鶏くいなひよ金雀ひわ、カケス、山鴫やましぎ、山鳩、鴨、小鴨、がん、牛、羊なぞはあまり焼き過ぎない方が良いとしてあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
母娘とはいいながら、こんなに声が似ているものか! これでは自分がお艶と間違えて飛び起きたのも無理はない——と栄三郎、たたく水鶏くいなについだまされて……の形で、思わず苦笑を浮かべながら
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
水鶏くいなく夜の
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからまた、やはり夜明けごろに窓外の池のみぎわで板片を叩くような音がする。間もなく同じ音がずっと遠くから聞こえる。水鶏くいなではないかと思う。
浅間山麓より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
田圃の小川では、葭切よしきりが口やかましく終日しゅうじつさわいで居る。杜鵑ほととぎすいて行く夜もある。ふくろうが鳴く日もある。水鶏くいながコト/\たゝくよいもある。螢が出る。せみが鳴く。蛙が鳴く。蚊が出る。ブヨが出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たたく水鶏くいな
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)