水田みずた)” の例文
一月ひとつきばかりの間、雨は一粒も降らず、ぎらぎらした日が照って、川の水はかれ、畑の土はまっ白にかわき、水田みずたまで乾いてひわれました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
投げつけられても、稲の茂った水田みずたの中ですから別に大した怪我けがはなく、暫らくもぐもぐとやって、泥だらけになって起き返ると
よろず屋の店と、生垣との間、みちをあまして、あとすべていまだ耕さざる水田みずた一面、水草を敷く。紫雲英げんげの花あちこち、菜の花こぼれ咲く。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供の手を引いて歩いてくる女連の着物の色と、子供の持っている赤い風船の色とが、冬枯した荒凉たる水田みずたの中に著しく目立って綺麗に見える。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
水田みずた、岡田、柳原と、一隊は粛々と進んで行った。飯山城下まで来た時である。右京次郎の股肱ここうの臣、かけい白兵衛は群を脱け、城の大手の門へ行ったが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
闇の中に水田みずたは、白く光っていた。そしてそこら中から、仰々しい殿様蛙の鳴き声があがっていた。の紳士は、ホッと溜息を漏らすと、帽子を脱いだ。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
薬剤の容器については、私は知る所がない。が、物好きな読者が、彼の線路の附近を丹念に探し廻ったならば、恐らくは水田みずたの泥の中から、何ものかを発見するであろう。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
け行くや水田みずたの上の天の川 惟然いぜん
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
枝々のなかの水田みずたの水がどんよりしてよどんでいるのに際立って真白まっしろに見えるのはさぎだった、二羽一ところに、ト三羽一ところに、ト居て
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あわてて長持の中から這い出したのはいいが、這い出したところが水田みずたです。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たいらかな水田みずたもことしがよくてふねのほにほがさくかとぞみる
と思うのに——雲はなくて、蓮田はすだ水田みずた、畠を掛けて、むくむくと列を造る、あの雲の峰は、海からいて地平線上を押廻す。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
降らないでもない、糠雨ぬかあめの中に、ぐしゃりと水のついた畔道あぜみち打坐ぶっすわって、足の裏を水田みずたのじょろじょろながれくすぐられて、すそからじめじめ濡通って
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またあの町の空を、山へ一面に真黒な、その雲の端が、白く流れ出して、踏切の上を水田みずたの方へ、むらむらとまだらに飛ぶ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
川筋さえけて通れば、用水に落込む事はなかったのだが、そうこうする内、ただその飛々とびとびの黒い影も見えなくなって、後は水田みずた暗夜やみになった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さらさらと降る雨に薄白く暗夜やみよにさして、女たちは袖を合せ糸七が一人立ちで一畝ひとうね水田みずたを前にして彳んだ処は
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
片側の屋敷町で、川と一筋、どこまでも、古い土塀が続いて、土塀の切目ははたけだったり、水田みずただったり。……
もとからの耕地でないあかしには破垣やれがきのまばらに残った水田みずたじっと闇夜に透かすと、鳴くわ、鳴くわ、好きな蛙どもが装上って浮かれて唱う、そこには見えぬ花菖蒲、杜若かきつばた
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しばらくすると、薄墨をもう一刷ひとはけした、水田みずたの際を、おっかな吃驚びっくり、といった形で、漁夫りょうしらが屈腰かがみごしに引返した。手ぶらで、その手つきは、大石投魚を取返しそうな構えでない。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目の下の水田みずたへはかりが降りるのだそうです。向うの森の山寺には、くれつの鐘が鳴ると言う。その釣鐘堂も崩れました。右の空には富士が見える。それは唯深い息づきもしない靄です。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて停車場ステエションへ出ながらると、旅店はたごやの裏がすぐ水田みずたで、となりとの地境じざかい行抜ゆきぬけの処に、花壇があって、牡丹が咲いた。竹の垣もわないが、遊んでいた小児こどもたちも、いたずらはしないと見える。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
城下優しい大川の土手の……松に添う片側町かたかわまちの裏へ入ると廃敗した潰れ屋のあとが町中に、棄苗すてなえ水田みずたになった、その田の名にはとなえないが、其処をこだまの小路という、小玉というのの家跡か
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)