橋板はしいた)” の例文
橋は一尺に足らぬ幅だからどっちかで待ち合せなければなるまいと思ったが、向うはまだ土堤どてりきらないので、こっちは躊躇ちゅうちょせず橋板はしいたに足をかけた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其時そのときくるま真中まんなかに、案山子かゝしれつはしにかゝつた。……おと横切よこぎつて、たけあしを、蹌踉よろめくくせに、小賢こざかしくも案山子かゝし同勢どうぜい橋板はしいたを、どゞろ/\とゞろとらす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何人の夜けてまうで給ふやと、あやしくも恐ろしく、親子顔を見あはせていきをつめ、そなたをのみまもり居るに、はや前駆ぜんぐ若侍わかさむらひ七四橋板はしいたをあららかに踏みてここに来る。
あたりをかまはず橋板はしいたの上に吾妻下駄あづまげたならひゞきがして、小走こばしりに突然とつぜんいとがかけ寄つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
舟は波のうねりのすくない岩陰につながれておかへは橋板はしいたが渡された。その舟には顔の渋紙色をした六十に近い老人と三十位の巌丈がんじょうな男がを漕ぎ、十八九に見える女が炊事をやっていた。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
壊れた竹の欄干らんかんつかまって、月のかかった雲の中の、あれが医王山と見ている内に、橋板はしいたをことこと踏んで
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たちま長吉ちやうきちは自分の影が橋板はしいたの上に段々にゑがき出されるのを知つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
激しく雨水の落としたあとの、みぎわくずれて、草の根のまだ白い泥土どろつち欠目かけめから、くさびゆるんだ、洪水でみずの引いた天井裏見るような、横木よこぎ橋板はしいたとの暗い中を見たがなにもおらぬ。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋板はしいたがまた、がツたりがツたりいつて、次第しだいちかづいてる、鼠色ねづみいろ洋服やうふくで、ぼたんをはづして、むねけて、けば/\しう襟飾えりかざりした、でつぷり紳士しんしで、むねちひさくツて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、橋板はしいたが、きしむんだ。けずったら、名器の琴になろうもしれぬ」
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)