ふね)” の例文
ふねを使う(諸味もろみを醤油袋に入れてしぼぶねで搾ること)時に諸味を汲む桃桶を持って来いと云われて見当違いな溜桶ためおけをさげて来て皆なに笑われたりした。
まかないの棒 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
また他の家から来た屑と混合して製紙場のふねから流れ出すまでの径路に、どれほどの複雑な世相が纏綿てんめんしていたか
浅草紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
湯はふねの四方にあぶれおつ、こゝをもつて此ぬるからずあつからず、天こうくわつくる時なければ人作じんさくの湯もつくなし、見るにも清潔せいけつなる事いふべからず。
みことのりのままに奉ると申しければこのおとめを湯津ゆづのつまくしに取りなし、みずらにさし八醞やみおりの酒を八つのふねにもりて待ちたもうに、はたしてかの大蛇おろち来たれり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
石に不自由せぬ国と見えて、下は御影みかげで敷き詰めた、真中を四尺ばかりの深さに掘り抜いて、豆腐屋とうふやほどな湯槽ゆぶねえる。ふねとは云うもののやはり石で畳んである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして夕刻、何気なく下城して帰ってみると、邸内いたる所に鯉を入れた桶やふねがおいてあって
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
布をす事のみ念じて宅へ入る刹那せつな、自家の飼牛がえる、水を欲しいと見える、布を量る前に水を遣らんと水を汲んで桶からふねに移すに、幾時経っても、桶一つの水が尽きず
清水のふね、落雷のために裂けた高い杉の幹、それから樂しい爐邊の火に映るお文さんのお母さんの艶々とした頬邊ほつぺたなどを遠く離れて居てしかもあり/\と見ることが出來ました。
湯はふねの四方にあぶれおつ、こゝをもつて此ぬるからずあつからず、天こうくわつくる時なければ人作じんさくの湯もつくなし、見るにも清潔せいけつなる事いふべからず。
誰か来たなと、身を浮かしたまま、視線だけを入口にそそぐ。湯槽ゆぶねふちの最も入口から、へだたりたるに頭を乗せているから、ふねくだる段々は、あいだ二丈を隔ててななめに余が眼に入る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
里人酒とふね道傍みちばたに設け、また草を織りて下駄げたを作り、結び連ね置くを見て、その人の祖先の姓名を呼び、奴我を殺さんと欲すと罵って去るが、また再三相語ってちょっと試みようと飲み始めると
「知ってるのかい」と碌さんまた湯の中へ這入はいる。圭さんはまたふねのなかへ突立つったった。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
渦捲うずまく煙りをつんざいて、白い姿は階段を飛び上がる。ホホホホと鋭どく笑う女の声が、廊下に響いて、静かなる風呂場を次第にむこう遠退とおのく。余はがぶりと湯をんだままふねの中に突立つったつ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あの隣りの客は元来何者だろう」と圭さんがふねのなかから質問する。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まないた引摺ひきずっていては一足ひとあしごとにあとしざるようで歯痒はがゆくなる。それを一町ほど行って板囲いたがこいの小屋の中をのぞき込むと、温泉があった。大きい四角なおけふちまで地の中にんだと同じようなふねである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云いながらふねからあがる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)