柘榴口ざくろぐち)” の例文
いたにはあまり人がりませぬで、四五にんりました。此湯このゆ昔風むかしふう柘榴口ざくろぐちではないけれども、はいるところ一寸ちよつと薄暗うすぐらくなつてります。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「二三人いたようですが、しばらく柘榴口ざくろぐちから出ずに、夢中でのどを聞かせていたから、どんな野郎がいたか、ろくに見やしません」
柘榴口ざくろぐちの中の歌祭文うたざいもんにも、めりやすやよしこのの声が加わった。ここにはもちろん、今彼の心に影を落した悠久ゆうきゅうなものの姿は、微塵みじんもない。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
半七は柘榴口ざくろぐちへはいって体を湿しめしていると、湯気にとざされていた風呂のなかで、男同士の話し声がきこえた。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ここにも喧嘩が起ったのかと振り向くと、狭い柘榴口ざくろぐち一寸いっすんの余地もないくらいに化物が取りついて、毛のある脛と、毛のない股と入り乱れて動いている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
銭湯の柘榴口ざくろぐちに見立てた板に、柄のついたのを前に立て、中でお湯を使ったり、子供の人形を洗ってやったりするところを見せたものなぞがあったものである。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
柘榴口ざくろぐちからながしへ春重はるしげ様子ようすには、いつもとおりの、みょうねばりッからみついていて、傘屋かさや金蔵きんぞう心持こころもちを、ぞッとするほどくらくさせずにはおかなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それを柘榴口ざくろぐちといって、そこをくぐって、足掛の踏段ふみだんを上って、湯槽にはいるのである。自然湯槽は高くなっている。今のように低くなったのを温泉といっていた。
湯屋では、八ケンというものが男湯と女湯との真ん中にいていた。柘榴口ざくろぐちくぐって這入はいるのです。
顎十郎が、小杓子でかかり湯をつかっていると、唄がやんで、柘榴口ざくろぐちからまっ赤になって這いだして来たのは、加賀さまのお陸尺で、顔なじみの寅吉という剽軽ひょうきんなやつ。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
銭湯の柘榴口ざくろぐちのような構えをした吹抜亭の表作りがなつかしく目に見えてきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
上方風の小意気な鮨屋すしやがあったり、柘榴口ざくろぐちのある綺麗な湯屋があったりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
濛々と湯気のこもった柘榴口ざくろぐちから、勘弁勘次が中っ腹に我鳴り返した。
「二三人ゐたやうですが、暫く柘榴口ざくろぐちから出ずに、夢中でのどを聞かせてゐたから、どんな野郎がゐたか、ろくに見やしません」
柘榴口ざくろぐちの方へ歩いて行く馬琴の後姿を見送つて、これから家へ帰つた時に、曲亭先生につたと云ふ事を、どんな調子で女房に話して聞かせようかと考へた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
女中が一緒に付いて来たんですが、こいつが柘榴口ざくろぐちの中で町内の人と何かおしゃべりをしている間に、勘蔵がこっそりと娘の耳へ吹き込んでしまったんです。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と云ってみんな出て仕舞ったが、中に一人九兵衞さんと云う人ばかりは出られませんから、そっ柘榴口ざくろぐちくゞって逃げようと思うと、水船の脇ですべって倒れました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あさっぱらの柳湯やなぎゆは、町内ちょうないわかものと、楊枝削ようじけずりの御家人ごけにん道楽者どうらくもの朝帰あさがえりとが、威勢いせいのよしあしをとりまぜて、柘榴口ざくろぐちうちそととにとぐろをいたひとときの、はじ外聞がいぶんもない
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
柘榴口ざくろぐちの中は薄暗いから顔は見えないが、どちらも年配らしい落着いた声。
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
柘榴口ざくろぐちの方へ歩いて行く馬琴の後ろ姿を見送って、これから家へ帰った時に、曲亭先生にったということを、どんな調子で女房に話して聞かせようかと考えた。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浴槽は高く作られて、踏み板を越えて這入るのが習で、その前には柘榴口ざくろぐちというものが立っているから、浴客は柘榴口をくぐり、更に踏み板を越えて浴槽に入るのである。
明治時代の湯屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そういいながら、柘榴口ざくろぐちから、にゅッとくびしたのは、絵師えし春重はるしげだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
だから柘榴口ざくろぐちの内外は、すべてがまるで戦場のやうに騒々しい。そこへ暖簾のれんをくぐつて、商人あきうどが来る。物貰ひが来る。客の出入りは勿論あつた。その混雑の中に——
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だから柘榴口ざくろぐち内外うちそとは、すべてがまるで戦場のように騒々しい。そこへ暖簾のれんをくぐって、商人あきうどが来る。物貰ものもらいが来る。客の出入りはもちろんあった。その混雑の中に——
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)