枝折戸しをりど)” の例文
夜業やげうの筆をさしおき、枝折戸しをりどけて、十五六邸内ていないを行けば、栗の大木たいぼく真黒まつくろに茂るほとりでぬ。そのかげひそめる井戸あり。涼気れうきみづの如く闇中あんちう浮動ふどうす。虫声ちうせい※々じゞ
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
よく通る男の子の聲、顏を擧げると、枝折戸しをりどを押しあけて、十二三の小僧が顏を出して居ります。宗之助といふ十三になつたばかりの、非凡の惡戯者です。
麹町番町かうぢまちばんちやう、藤枝外記(五百石の旗本)の屋敷。二重家體にぢうやたいにて、床の間に鎧櫃を飾り、つゞいて違ひ棚、襖。庭には飛石、石燈籠、立木。下のかたに枝折戸しをりどあり。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
矢庭に圭一郎は庭に飛び下りた。徒跣はだしのまゝ追つ駈けて行つて閉まつた枝折戸しをりどで行き詰まつた子供を、既事すんでのことで引き捉へようとした途端、妻は身を躍らして自分を抱き留めた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
つまさせ、てふ、かたさせ、ときますなかに、くさですと、そこのやうなところに、つゆ白玉しらたまきざんでこしらへました、れう枝折戸しをりどぎんすゞに、芥子けしほどな水鷄くひなおとづれますやうに、ちん、ちん……とかすか
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
客去りて車轍くるまあとのみ幾条いくすぢとなく砂上にあざやかなる山木の玄関前、庭下駄のまゝ枝折戸しをりど開けて、二人のむすめの手をたづさへて現はれぬ、姉なるは白きフラネルの単衣ひとへに、うるしの如き黒髪グル/\と無雑作むざふさつか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
枝折戸しをりどぢて、えんきよほどに、十時も過ぎて、往来わうらいまつたく絶へ、月は頭上にきたりぬ。一てい月影つきかげゆめよりもなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ガラツ八の八五郎が、鼻の頭から襟へかけての汗を、肩に掛けた手拭の端つこで拭きながら、枝折戸しをりどを足で開けて、ノツソリと日南ひなたに立ちはだかるのでした。
下のかたには出入り口の低き枝折戸しをりどあり。枝折戸の外は、上の方より下の方へかけて小さき流れありて、一二枚の板をわたし、芽出し柳の立木あり。薄く水の音。鶯の聲きこゆ。
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
落葉おちば樣子やうすをしてはうきつて、枝折戸しをりどからはひつた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ガラツ八がさそふまゝ、平次も勝手口の方から枝折戸しをりどを押して、石卷左陣の浪宅の前に立つて居りました。
枝折戸しをりどの中、二三間先は嫁のお玉の部屋、つまり娘のお駒の殺された部屋らしく、二人の若い女が何やら片付けをし、主人の寺西右京らしいのはそれを指圖して居ります。