朽葉色くちばいろ)” の例文
おもて長く髪の白きが、草色の針目衣はりめぎぬに、朽葉色くちばいろ裁着たッつけ穿いて、草鞋わらんじ爪反つまぞりや、巌端いわばなにちょこなんと平胡坐ひらあぐらかいてぞいたりける。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朽葉色くちばいろの法衣の上にもし腹巻をあてていなかったらそのまま庵主として見てもふさわしい人だった。当年五十五、六か。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次第しだいえる三日月みかづきひかりに、あたりはようや朽葉色くちばいろやみさそって、くさむしのみがしげかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その神の森を遠く囲繞し、茅葺かやぶき小屋や掘立小屋や朽葉色くちばいろ天幕テントが、幾何学的の陣形を作り、所在に点々と立っているのは、これぞ水狐族と呼ばれるところの、巫女どもの住んでいる部落であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朽葉色くちばいろ晩秋おそあきの夢深き君がひたひ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
朽葉色くちばいろ、灰、ねずみ焦茶こげちゃ、たゞこれ黄昏たそがれの野の如き、霧のころもまとうたる、いづれも抜群の巨人である。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
朽葉色くちばいろ法衣ころもや、黒い法衣ほうえばかりの中に、たった一人、彼女の装粧よそおいだけが眼ざめるほど鮮麗だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朽葉色くちばいろ晩秋おそあきの夢深き君がひたひ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
耳打ちし合いながら、朽葉色くちばいろ頭巾ずきんや黒衣の影が、もうそこに近く見えて来た——武蔵と稚児ちご僧と、その二人を迎えに行った仲間僧ちゅうげんそうのすがたとへ、じっと、視線をそろえた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朽葉色くちばいろあか附きて、見るも忌わしき白木綿の婦人おんなの布を、篠竹しのだけさきに結べる旗に、(厄病神)と書きたるを、北風にあおらせ、意気揚々として真先まっさきに歩むは、三十五六の大年増おおどしま、当歳のななめに負うて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
垣根の下にが割れた朽葉色くちばいろ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そして、静かに妻戸を引いてそこをうかがうと、朽葉色くちばいろ法衣ほうえのすそがすぐ盛綱の眼に映った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右に、湯尾峠の万年姥まんねんうば。針のごとき白髪しらが朽葉色くちばいろ帷子かたびら赤前垂あかまえだれ
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朽葉色くちばいろ田螺頭巾たにしずきんをかぶり、それより色の黒い頬のコケに、長いもみ上げをばさらと散らし、しらみもいそうな破れごろもをおかしげに着て、皮帯皮靴、大股ひらいて、こぶしを天に振っている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
店の前を、網代垣あじろがきでかこんだ家もあるし、朽葉色くちばいろや浅黄のぬのを垂れて部屋をかくしている構えもある。また塗塀ぬりべいふうに、目かくし窓を作って、そこから、呼んでいる女もあるのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎日、滝を浴びてはに照らされ、密林に木剣をふるっては雨露にさらされているこの行者は、面もほとんど朽葉色くちばいろけて、肉は落ち骨は尖って、まったく見る影もない枯巌枯骨こがんここつの姿である。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朽葉色くちばいろの汚ない法衣ころもは、法衣ころもの形をしていないほど着古されている。例の良雪和尚なのであった。少年達がうしろへ立ったのも知らないで小川の岸の若い草を摘んでは片方の法衣のたもとへ入れていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天井の高い御堂の中に、低すぎる燭台がただ一つぽつねんとともっていた。そのかたわらにまゆのように真白い髪の人が朽葉色くちばいろのうちかけを着て、ひそと坐っていた。いうまでもなく秀吉の母である。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)